暁 〜小説投稿サイト〜
薬師如来の柿
第一章

[2]次話
               薬師如来の柿
 広島県東広島市に長福寺という寺がある。
 この寺に良信という僧侶がいたが。
「実はだ」
「何とご本尊のですか」
「薬師如来様が拙僧の夢に出てな」
 弟子の良化に話した。
「そして告げられたのだ」
「何とでしょうか」
「鎌倉の永福寺にまで行ってな」
 そうしてというのだ。
「そのうえで柿をだ」
「柿、ですか」
「この寺に植えるといいとな」
「言われたのですか」
「そうなのだ」 
 若い弟子に話した。
「それでだが」
「はい、でしたら」
 若い弟子は自ら師に申し出た、
「拙僧がです」
「拙僧が行くつもりであったが」
「これも修行なので」
「だからか」
「はい、拙僧が鎌倉まで赴き」 
 この長福寺のある安芸からというのだ。
「そしてです」
「そのうえでか」
「柿の種を持ち帰ってきます」
「それではな」
「はい、今すぐにあちらに向かいます」
 良化はこう言ってだった。
 即座に鎌倉に発ってだった。
 永福寺から柿の種を持って帰った、そしてその柿の種を埋めるとだった。
 暫くして芽が出てだった。
 やがて木となり実が実った、良信はそれを見て言った。
「さて、桃栗三年でだ」
「柿八年ですね」
「待っておればな」
 種を持ち帰った良化に話した。
「それでだ」
「実が実りますね」
「そうなる、だからな」
 それでというのだ。
「後は待とう」
「後はそれだけですね」
「うむ、しかしな」
 良信は良化と共に柿の木を見つつ彼に話した。
「如来のお告げは何か」
「夢で言われたことは」
「それがまだわからぬ、御仏の言われることはな」
 それはというと。
「後になってわかることも多いな」
「はい、そうした話も確かに
 多いとだ、良化も答えた。
「その通りです」
「ならば」
「ここはですか」
「待とう」
 こう言ってだった。
 実が実るのを待った、そして実ってだった。
 最初は十二の実が実った、それでだった。
 良信はそのうちの一個を試しに食べてから半分を良化に分け与えて彼にも食べさせたうえで尋ねた。
「どうか」
「はい、美味いです」
 良化は師に確かな声で答えた。
「これは」
「そうであるな」
「はい、これはかなり」
「これは干しても美味いだろう」
 良信は述べた。
「だからな」
「それで、ですか」
「後の十一個は干してな」
 そうしてというのだ。
[2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ