第一章
[2]次話
董仙杏林
廬山後に詩にも詠われることになるこの山に董奉という者がいた。
若い頃は官吏であったが今は隠居して故郷で修行を積み仙術を備えてだった。
この廬山に住む様になり近くの人々の病や怪我を治していた、それでだった。
人々がお礼をしようとしてもだった。
「ああ、それはいい」
「いいのですか」
「わしは仙術を身に着けて仙人となった」
穏やかな優しい目で黒く濃い首の先まである髭を生やしてだった。質素な服を着たうえで言うのだった。
「だから金や食べものはな」
「よいですか」
「そうだ、お礼はいらぬ」
こう言うのだった。
「仙人なら当然のことだ」
「そうなのですね」
「だからいい」
こう言うのだった、だが。
人々はそんな彼の徳に報いようと話した。
「お金がいいのなら」
「食べものもいいと言われるし」
「仙人様だから酒もないな」
「では何がよいか」
こう話して共に考えた、そして。
その中でだ、ある者が言った。
「杏はどうだ」
「杏?」
「杏か」
「仙人様は桃だけでなく杏とも縁がある」
それでというのだ。
「だからな」
「それでか」
「治してもらったお礼にか」
「あの方に杏を差し上げるか」
「そうするか」
「そうしてはどうか」
こう提案するのだった。
「ここは」
「そうだな」
「ではそうしよう」
「実だと召し上がられないと言われて断られるだろう」
「それでは木がいいな」
「幸いこの辺りは杏の木が多い」
「それを差し上げよう」
「治してもらった時はな」
他の者達も頷いてだった。
そうして人々は董報に病や怪我を治してもらうとだった。
杏の木を彼に差し出すことにした、軽い場合は一株重い場合には五株そうする様にした。そうするとだった。
董奉も笑顔で言った。
「これは有り難い」
「受け取って頂けますか」
「杏の木は」
「そうして頂けますか」
「金や食べものそれに飲みものは受け取れぬが」
仙人はというのだ。
「木それも杏ならな」
「それならですか」
「受け取って頂けますか」
「そうして頂けますか」
「これだけ素晴らしいものを受け取らぬ訳にはいかぬ」
笑って言うのだった。
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