第三章
[8]前話
「勝負をするな」
「絶対にそうだな」
「今度は何の花でするか」
「そっちも気になるな」
「そしてどちらの花が白くなるか」
「見ものだな」
苦笑いをしつつこう言った、そして。
実際に二人はそれからも勝負を続けてだった。
「今度は旦那さんが勝ったな」
「前は奥さんでな」
「今度は牡丹でやったが」
「奥さんの牡丹が白くなったぞ」
「椿も薔薇も白くなった」
「菊もな」
「菖蒲も菫もな」
白くならない華達も勝負の結果そうなってきたというのだ。
「果ては紫陽花までだ」
「夫婦でよくやることだ」
「一体どれだけの花が白く変わるか」
「ある意味見ものだよ」
「全くだよ」
民達は夫婦の勝負を見つつこんな話をした、そしてだった。
その話を聞いた皇帝が興味を持って巡幸の折に実際にその地面を見てみると夫婦はもう仙人になっていた、だが勝負を続けていて。
白くならない筈の花が確かに動かしている方が負けると白くなっていた、皇帝はそれを見て語った。
「夫婦喧嘩は花の色も変えるということか」
「左様ですね」
「そうしたものでもありますね」
「動かしてな」
そうしてというのだ。
「色を変えるとはこの地だけだ」
「そしてそれを見られた」
「そのことがですね」
「神仙の術と童心を見られてな」
皇帝は確かな顔で述べた。
「よかったと言っておく、だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「術のこととはいえみだりに夫婦喧嘩をすることはよくない」
皇帝は周りにこのことも話した。
「そのことは二人に言っておこう」
「万歳老としてですね」
「この国を治められる方として」
「それは言っておく」
こう言ってだった。
皇帝は夫婦に自分の言葉を伝えさせた、すると夫婦も畏まって以後みだりに争うことはなかった。そうして花が白くなることはなくなったがこの話は今も残っている。
桃喧嘩 完
2022・3・12
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