第一章
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桃喧嘩
中国のある場所に劉剛という道士がいた。
その術はその辺りで知らぬ程であり彼もそれを誇りにしていた。
だがその妻、項娘もまたかなりの術の使い手であった。それで夫婦は共に暮らしながらもよく言い合っていた。
「わしの方が凄いぞ」
「私の方に決まってるでしょ」
「あら、また言い合ってるよ」
近所の者達はそんな夫婦を見て苦笑いを浮かべていた。道観の中で黒い髭で顔の下半分を覆った引き締まった顔の中年男と艶やかな感じの中年女どちらも道士の服を着ている彼等が言い合うのを見てそうなった。
「あの夫婦は」
「いつもだよな」
「そうだよな」
「暇だとな」
そうなればというのだ。
「言い合うよな」
「自分の方が上とか」
「何かと張り合うな」
「普段は仲がいいのに」
それでもというのだ。
「こと仙術のことになると」
「ああして言い合うな」
「お二人共仙人に近いと思うが」
「それでもああしたところがな」
「参ったものだよ」
こう話すのだった、近所の民達はそんな彼等を見てやれやれと思っていた。だが彼等はあくまで真剣だった。
それである日のことだった、妻が夫に言った。
「決着をつけましょう」
「望むところだ」
夫もこう返した。
「その時が遂に来た」
「あなたもそう言いますね」
「言わずにいられるか」
売り言葉に買い言葉で返した。
「最早な、それでどうして勝負する」
「あれを使いましょう」
妻は道観の中庭の桃の木を指差した、見れば数本ある。
「あの桃の木達をです」
「あれを使ってか」
「桃は神仙の木ですね」
「如何にも」
「なら道士の術の勝負にも相応しいです」
夫に毅然として語った。
「だからこそです」
「勝負はだな」
「桃の木を使ってです」
そのうえでというのだ。
「決めましょう」
「それではな」
夫婦で向かい合って話してだった。
勝負をすることになった、すると。
まずは夫が術を使った、すると一本の桃の木がまるで生きものの様に動き出した。夫はそれを見て妻ににやりと笑って語った。
「この通りだ」
「やりますわね」
「そなたにこれが出来るか」
「この通り」
妻も術を使った、すると。
別の桃の木が動きだした、やはり生きものの様に。そしてその場で踊りはじめた。妻は踊る桃の木を見つつ夫に話した。
「あなたにこれが出来まして?」
「この通りだ」
夫が言うとだった。
彼が動かす桃の木も踊り出した、しかも派手に飛んだり跳ねたりして割いている淡い紅色の花も舞う。彼はその花びら達も見つつ話した。
「奇麗なものだな」
「あら、ではこちらも」
妻が動かす木も派手に踊りだした、やはり淡い紅色の花びら達が舞う。
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