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知恵の実について
第三章

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「本当にね」
「そしてコペルニクスは天動説を否定してね」
「地動説を唱えたね」
「それまで聖書の主張が絶対で」
 即ち常識であったのだ、当時のだ。
「誰もがそれを正しいと考えていたけれど」
「コペルニクスはそのことについても考えて」
「地動説を出してね」
 そしてというのだ。
「常識を覆したわ」
「そうだったね」
「貴方の言う通りよ、学問はね」
 同僚に微笑んで答えた。
「常識と思われていることを検証する」
「そうしたことも行うね」
「ええ」
 その通りだというのだ。
「本当にね」
「だからだよ」
「今の私の考えもなのね」
「そして検証もね」
「学問なのね」
「学者として相応しい行為だよ」 
 彼女に笑顔で言った、そうして彼女を応援するのだった。
 ステッラはそれからも知恵の実について考え検証してそれを論文としても発表した。それを見てだった。
 もう老人になり大司教になっていたグレゴリは彼女の論文を読んで成長して自分のところに訪問していた彼女に言った。
「素晴らしいです、私も知恵の実はです」
「林檎とですか」
「そうとしかです」 
 こう言うのだった、バチカンの中で。
「考えていませんでした」
「大司教様もですか」
「そうでした」
 今の自分の位を述べたミレッラに答えた。
「ですが考えてみますと」
「林檎かどうか」
「わからないです」
「あれから調べますと杏と言う人もいれば」
 この果物だというのだ。
「オレンジと言う人もです」
「おられるのですね」
「私はイチジクではないかと考えていますが」
 それでもというのだ。
「色々な説があり勿論林檎という人もです」
「おられるのですね」
「そこはです」
 どうもというのだ。
「確かなことはです」
「まだわからないですね」
「左様です」
「そうですか、ですが知恵の実は林檎とは限らない」
 大司教は微笑んで述べた。
「聖書においても失楽園においても」
「考えてみることですね」
「左様ですね、ではこれからも」
「他の研究も進めていきますが」
「知恵の実のこともですね」
「そうしていきます」
 ミレッラは大司教に確かな声で答えた。
「これからも」
「わかりました、貴女に神のご加護があらんことを」
 聖書のそのことについて調べていくという彼にこう返した、ミレッラは優しい顔で述べた彼に笑顔で頷いた。そうしてそれからも知恵の実について検証していきそれはやがて神学そして植物学上の大きな議論となっていった。常識は果たしてその通りなのかと。


知恵の実について   完


               2022・2・13
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