第80話 怪物、登場
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うなもの。用材は軍用の集合兵舎で、道路も基本的には無舗装だ。初期の委員会で簡易舗装まで予算が付けられたが、本来民間人が恒久的に生活できるような施設ではない。
しかも職業の問題もある。公務員や教職・医療・建築といった、どの星でも一定の需要があり、避難民の生活に直接必要な職業はともかく、エル=ファシルを根拠地とした農・鉱工業・不動産・商業関係者は、ハイネセンで早々簡単には職業を得ることができない。特殊法人からの給付金だけが生活費という人もいる。
マーロヴィアを例に挙げるまでもなく、辺境星域が定期的に移住者を募集していることを知り、応募して故郷への帰還を諦めた人も多い。ハイネセンに残っているのは、エル=ファシルが同盟軍に奪還されたことを知り、故郷へ帰ることを切実に希望している人達だ。一日でも早く、という思いはここにいるどの集団よりも強い。そういう空気を読み切れないほどに、副首相はハイネセン呆けをしてしまっている。
「だ、そうです。副首相閣下」
俺が改めてシェストフ氏に視線を向けると、氏は顔を震わせて俺を見る。まるで怪物を見るような、嫌悪と恐怖の入り混じった視線だ。そんな視線を向けられるほど、悪いことをした覚えはないが……気まずい沈黙が再び会議室を覆いそうになった時、まったく場違いな拍手が地域社会開発委員会の席から聞こえてくる。この会議室にいる誰もが、その拍手をする人物に視線を向けた。勿論俺も。
その拍手をしている男は、端正な顔に人好きするような笑みを浮かべた舞台俳優のような、本物の怪物だった。
◆
なんでお前がここにいる。
俺はこの世界に来て初めて肉眼で見る、生のヨブ=トリューニヒトから視線を逸らすことができない。別にマークしているつもりはなかったが、事前に配布された会議の出席メンバーにも、事業団の構成メンバーにも当然奴の名前はなかった。
だいたい元々奴は国防委員で、直接的には事業団と関係はない。まして同じ与党でもサンフォードの派閥の代議員でもない。奴がこの会議に出てきて得られるといえば、それこそ星間運輸企業関連での口利きのネタを手に入れる程度だろう。それだって本来は特殊法人(つまり旧行政府)のシマであって、いくら企業とパイプがあろうとも、そうやすやすとは口を挟めないはずだ。
だが奴は現実に、地域社会開発委員会側の席にいる。俺が帰還運航計画について説明が終わった段階で姿はなかったから、トイレや何やらで中座しているメンバーと入れ違いで入ってきたことは間違いない。なんの為に来たのか、さっぱりわからない。だが奴の空気を読む能力の高さは極めつけだ。拍手するタイミングといい、場を一瞬にして自分の舞台にしてしまった。
「いや、素晴らしい。ボロディン少佐。国防委員の一人として、国家と市民の
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