第80話 怪物、登場
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諦めてもいた。それほどまでにサンフォードに対する期待というか上司に対する忠誠が彼らには存在していない。
「話を元に戻したい。ボロディン少佐。第四四高速機動集団の立案した帰還運航計画について、今後当委員会が関与していくということでいいか?」
「関与に対するレベルにもよります。とかく軍用航路を優先的に使うことを望まれるのであれば、運行計画スケジュールに対する関与は固くお断りいたします」
「少佐が考える帰還時期を教えていただきたい」
「七九〇年一月中には希望される全住民をエル=ファシルの地上にお届けしましょう」
「……残り一ケ月半か」
おぉ、という住民代表席の歓声がそれに続く。顔を上げた官僚団の俺への視線は『お前、絶対何か全く別のこと企んでいるだろ』という疑念と苦虫が混ざり合っている。だがその疑念をここで口に出すのはもう遅すぎる。モンテイユ氏も察したのか、カモメ眉の片翼が綺麗に吊り上がった。
「確かに避難住民のことを考えると、時期は早い方がいい。我々も可能な限り協力し努力しようと思う」
「よろしくお願いいたします」
「ま、待ってくれ!」
俺とモンテイユ氏で話を切り上げようとしたタイミングで、シェストフ氏が席を立って声を上げる。ようやく気が戻ったのか。その顔には怒り以上に焦燥が見える。
「そう勝手に実務側で日程まで決められては困る。住民にも今の生活がある。それを突然、勝手に一ケ月後に帰還すると決めれば、住民自身の現在の生活に混乱が生じることになる」
本当は星間運輸企業に求めたリベートを上乗せした輸送船団のチャーター代の折り合いや、建機メーカーの手配についての時間的な余裕が欲しい。特に建機メーカーや今後のエル=ファシル再開発における入札について、ハイネセンで打合せする時間が欲しいというところか。だがそれが実務者達の足を引っ張ることになっているのだから、暴虐無人な軍人としてここはなるべくきれいに躱したいところだ。
「と、副首相閣下は仰っておりますが、住民代表の皆さんはいかがお考えで?」
にこやかな好青年将校スマイルで住民代表席を見れば、ロムスキー氏は言わずもながと肩をすくめて応えてくれる。
「エル=ファシルに早く帰れるというのであれば、我々としては望むところです。我々はもう一年半以上も、隔離施設のような避難住宅で暮らしています。ハイネセンや他の惑星へ移住する人も多くなってきましたが、故郷に帰れるめどがついたのであれば、皆、一日でも早くと望むことでしょう」
三〇〇万人にも及ぶ避難住民をいきなりハイネセンポリスに入れるわけにはいかない。それだけの規模の民間の宿泊施設を借り上げるなど不可能だ。その為、負い目の合った軍が総力を挙げて郊外に建設した避難住民の為の町は、はっきり言えば超大型の駐屯地のよ
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