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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第80話 怪物、登場
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「だから何です? もし貴方方にその実行力がないというのであれば、軍隊にしっかりと条件を付けて依頼すればいいだけの話ではないですか。エル=ファシルに住民を帰還させたい。その為には船が必要だ。だが特別法人では船を揃えるだけでも手一杯であるから、どうにか軍の方でも船を用立てして欲しい。その金は特別法人の基金から用意すると」
「基金の運用はともかく、帰還事業の予算執行手続きには特殊法人の承認が必要だ。苦難の中にある避難住民をさらに今度は軍輸送船でモノのように運ぶなどできるはずはない。貴官は一般市民と軍人の体力や精神力が同等とでも思っているのか?」
「であれば官公側で船舶の調達を行うべきでしょう。戦火冷めやらぬ前線に船を出したくないという企業に対しては、軍が完全に護衛すると説得すればいい。その為にも軍に協力を求める位の、配慮は貴方方にはないのですか?」
「軍はこれまでこの協力会議に連絡官のみしか派遣していない。失礼ながら『施設課』の中尉殿にその権限は与えられていないだろう」
「だからこそ特殊法人側で意見を纏め、軍に協力を仰ぐ必要があったのでは? 特殊法人の総意として、帰還事業における軍の関与を求めるという『正式な文書』が地域社会開発委員会から統合作戦本部に提出されれば、軍はきちんと要員を派遣し帰還運航計画を立案できますよ?」

 俺とモンテイユ氏の語気を荒げた論争に、会議室はシーンと静まり返った。副首相の息のかかった星間運輸企業との金額のすり合わせや、それに伴う特殊法人内での統一された意見の作成の遅れ、やる気のない軍と地域社会開発委員会の不作為、それぞれ問題点を上げたつもりだが、分かってくれただろうか。

 モンテイユ氏とその後ろに居座る官僚達は、明らかに目の色が変わった。一介の少佐に侮辱されたというより、一介の少佐がここまで政治側に喧嘩を売って来てくれたのに、政治家や企業の圧力を恐れて動いてこないでは、文官エリートとしてのプライドにかかわると感じたからだろう。即座に端末を開いて作業をしている奴もいる。

 特殊法人代表部の方は呆然としている。即興出来レースとは認識できない鈍さは、元エル=ファシル行政府の人間とは思えないくらいだ。エル=ファシルから逃れてきて一年半。安全な後背でのどうでもいい利権争奪に、鋭敏な神経が失われているとしか思えない。

 住民代表達はここでは傍観者だ。意見も言うし要求もするだろうが、とにかく帰れればいいという受益者視点なので、方法論に口を挟むことはしない。また俺達の方も、後から出てくるだろう細かい要求に応えるのはその時になってからでいいと思っている。

 地域社会開発委員会の事務官達も官僚だから、俺とモンテイユ氏の議論がサンフォードの存在を無視しているとは分かっている。分かっている故にもう口を挟むのは止めようと
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