第九話 聖バルテルミーの虐殺その十七
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「そこまで絵に打ち込めるなんて」
「凄いですか」
「そうそうできないよ。それでだけれど」
「はい」
「何を描いているのかな」
「この絵です」
こう言ってだ。十字は先生にその絵を見せた。その絵を見てだ。
先生はまずは目を顰めさせた。そしてそのうえでこう言ったのだった。
「これはまた」
「どう思われますか」
「怖い絵ですね、これはまた」
見れば十六世紀頃の欧州の町においてだ。人々が入り乱れていた。しかしただ入り乱れているのではない。それは異様な入り乱れ方だった。
虐殺だった。一方が一方を殺戮している。それが行われている絵だった。あちこちで剣や棒を持った人々が倒れたり逃げようとしたり命乞いをしている人達を殺そうとしている。
その絵を見てだ。先生は言った。
「デュポワの絵ですね」
「はい、サン=バルテルミーの虐殺です」
その絵だとだ。十字も先生に答える。
「歴史にあったあの」
「そうですね。あの虐殺ですね」
「僕はカトリックです」
宗教のこともだ。十字は述べた。
「そしてこの絵はです」
「カトリックの。プロテスタントに対する」
「そうです。虐殺の絵です」
「欧州はこうしたことがよく起こっていたからね」
先生は眉を少し曇らせて言った。
「宗教対立によってね」
「ドイツでもでした」
「そうそう。ルターからはじまって」
そしてだった。ドイツではだ。
「三十年戦争になってね」
「各国で血が流れました」
「凄かったらしいね」
「はい、恐ろしいものでした」
「この絵にある様なね」
「そうです。ですが絵よりもです」
今十字自身が模写しているだ。その絵よりもだというのだ。
「実際はです」
「酷かっただろうね」
「そこには人の醜い面が全て出ていました」
淡々とだ。十字はこの事実を先生に語っていく。
「破壊、殺戮、略奪」
「とにかく何でも行われていたんだね」
「はい。人は普段は良識があります」
そしてそれがある故にだというのだ。
「ですからそうした行動は取りませんが」
「しかしそれがね」
「はい、その良識がなくなるとです」
「この絵の様なことになるね」
「その通りです。そしてそれは」
「それはというと?」
「カトリックの信者でも同じです」
十字にしては珍しくカトリック批判とも捉えられる言葉だった。しかしだ。
彼はここでだ。こう言ったのだった。
「神を忘れてしまうとです」
「こうなるのかい?」
「狂気、それは信仰ではありません」
「ではこの絵のカトリックの人達は何なのかな」
「神を忘れています」
そうなっているというのだ。虐殺
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