第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師 その5
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ク港に向かう赤軍戦術機部隊の一群。
鎌と槌が描かれたソ連国旗を掲げながら、堂々と東ドイツの空を飛んでいた。
だが、誰も咎める者も、抗議する物も居なかった。
この様に、東ドイツの置かれた状況は、一言で言えば、惨めであった。
KGBの恣にされ、駐留ソ連軍はもとより大使館員の下働きまで、勝者の特権を思う存分に行使した。
BETA戦争で、ソ連が凋落し、極東に僅かばかりの領土を残す状況になっても、変わりはなかった。
だからこそ、ソ連にとっては光線級吶喊で名を挙げた二人の英雄は、目の上のたん瘤であった。
ユルゲン・ベルンハルト中尉とアルフレート・シュトラハヴィッツ少将には今回の決闘で死んでもらう必要がある。
そして、後ろで嗾ける、新任の議長と今の指導部も同様だ。
彼等には、「思想的鍛え直し」が必要ではないか……
嘗ての様にシュタージ長官でさえ、KGBの許しがなければ、厠にすら行けぬようにせねばなるまい。
その様にゲルツィン大佐は思い悩んでいると、副官の中尉から通信が入る。
「どうした同志中尉」
網膜投射越しに、浅黒い中尉の顔が映る。
「もうそろそろ付きます。ご準備を」
機内にある高度計に目を落とす。
「うむ」
地上には、すでに色も機種もバラバラな三体の戦術機が居並んでいた。
その内、深紅のバラライカPFが、川の中州で、佇んでいた。
追加装甲に左手を委ねる様にし、右手は非武装の状態で待機している。
30メートルほど離れた所に、東独軍の迷彩を施したバラライカと深緑のF-4Rファントムの姿が見える。
ユルゲンの目の前に、ゆっくりと銀面塗装のされた新型機が降りて来る。
ゲルツィン大佐は、機体の姿勢を正すと、ユルゲンに通信を入れた。
「その意気は買おう、そんな旧型機で俺に勝てると思ってるのか……」
右手を肩の位置まで上げると、兵装担架より長剣を取り出す。
ユルゲンは、網膜投射越しのゲルツィン大佐に、不敵の笑みを浮かべる。
深紅のバラライカは、前進し、僅か数メートルの距離で止まる。
同様に長剣を抜き出し、振り下ろす。
「最初からあなた方がこのように動けば、こんな無益な殺生は避けられた」
彼の言葉に、意表を突かれた様子で、暫し呆然とする。
「どういう事だ、同志ベルンハルトよ」
「シュミットを使い、コソコソ裏から手を回して、暗殺隊をベルリンに送り込んだ」
外側に向かって下げた切っ先を、円弧を描く様にして内側に向ける。
「昔のソ連ならそんなことはしなかった。自らの力で俺達を潰しにかかったはずだ」
「何が言いたい」
ゲルツィンは、そう言うと操縦桿を動かす。
新型機・チュボラシカは、刀に左手を添えて、右肩に乗せる様に構える。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ