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展覧会の絵
第九話 聖バルテルミーの虐殺その五

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「教えてもらったんだ」
「どうしてもできないことについてはなんだ」
「諦めてね。そうあるべきなんだ」
「別の道を」
「僕もできないことはあるから」
「あるの?」
「僕も。人間だから」
 それ故にだとだ。十字は和典に答えた。
 そして彼のその言葉を聞いてだ。和典はその十字に尋ねた。
「じゃあさ」
「その僕のできないことだね」
「うん。それは何かな」
 和典にとってはだ。十字はだ。
 まさに万能だった。天才とも言っていい。だからこう言ったのだった。
「勉強も出来るし運動神経も凄いよね」
 そしてだ。さらにだった。
「しかも絵だって上手だし。何でもできるんじゃないの?」
「そうでもないよ」
「本当に?」
「僕は料理はできないよ」
 十字が言うのはこのことだった。
「それに。感情もね」
「感情?」
「僕は心を出せないんだ」
 こう言ったのだ。これが十字のできないことだというのだ。
「顔にも声にもね。心をね」
「つまり無表情だっていうんだね」
「そう。仮面と言われたよ」
 感情を出さないままだ。十字は和典に答えた。
「ずっとね。そうね」
「感情をなんだ」
「そう。僕に感情はないってね」
「ううん、確かにね」
「田中君もそう思うね」
「正直に言っていいから」
 こう前置きしてからだ。和典は絵を描くその手を止めてだ。
 そのうえでだ。こう彼に言ったのである。
「僕の思ったことを」
「うん。そうしてくれるかな」
「思ったよ。そして今も少しね」
「僕には心がないと」
「表情が変わらないし」
 まずは何と言ってもそれだった。十字のその感情のない仮面の如き顔だった。
「それに。言葉もね」
「それもだね」
「感情が見られないっていうかね」
「ない様に」
「そう。思えたから」
 それ故にだというのだ。
「今も少し思えるよ」
「そうなんだね」
「気を悪くしたら御免ね」
「いや、それはないよ」
 気を悪くはしてないとだ。十字は答えた。
「自分でわかってるからね」
「だからなんだ」
「そう。それにね」
「それに?」
「いつも言われているから」
 だからだというのだった。
「特にね」
「気を悪くしないんだ」
「そうだよ」
「だといいけれど」
「わかりにくいと思うけれどね」
 十字が感情を見せないからだ。だからこそである。
「それでも。気を悪くはしていないかた」
「うん、そうなんだ」
「それでも僕にもね」
「感情はあるんだね」
「そうだよ。しっかりとね」
 こう和典に話していく。
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