第九話 聖バルテルミーの虐殺その四
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しかしそれでもだ。十字は静かに言うのだった。
「そこから己を高めるべきではあってもね」
「嫉妬したり憎むと」
「闇に落ちるよ」
そうなるというのだ。
「悪魔の世界にね」
「悪魔の世界。それって確か」
「キリスト教で言う地獄だよ」
それだとだ。十字は言うのだった。
「そこに落ちてしまうんだよ」
「ううん、そう言われると怖いね」
実際に背筋に寒いものを感じてだ。和典は十字に答えた。
「自分と誰かを比べて。それで劣等感を感じるのは」
「それ自体があまりよくないけれど己を高められるならまだいいんだ」
「努力をするからだね」
「そう。けれどそれが闇に落ちるのなら」
「絶対に持つべきではないんだね」
「そうなんだ」
十字は淡々と和典に話していく。
「人が人である為には」
「嫉妬、そして憎悪は」
「最も。人を害するものだよ」
そうだというのだ。
「闇に堕ちるから」
「成程ね。努力するのはいいにしても」
「そう、羨むことは危険なんだよ」
「ううん、僕も本当に気をつけないとね」
どうかとだ。和典自身も言うのだった。
「駄目だね」
「そう思うよ。だから僕はね」
「佐藤君もなんだ」
「努力はしてもね」
それでもだというのだ。
「それでも。羨むことはしないつもりなんだ」
「つまり羨むのではなく」
「そう、その人を目指すべきなんだ」
大事なのはだ。それだというのだ。
「そして努力すべきなんだ」
「羨むってことは。前に進まないことなんだね」
「そうなるよ。前に進むにはね」
「目指さないと駄目なんだ」
「その通りだと思うよ」
「そうなんだ。けれどだよ」
ここでだ。和典は描き続けながらだ。十字に問うた。
「人には得手不得手があるよね」
「人間はね。完全な存在じゃないから」
「そうだよね。それでどうしてもできないことについては」
「その場合は仕方ないよ」
十字はこのことについては実に素っ気なく和典に答えた。
「不得意なことについてはね」
「そう言うんだ」
「そう。だからその場合はね」
「どうしたらいいのかな。どうしてもできないことについては」
「最後まで努力してね」
努力は必須だった。十字はこれは絶対とした。
だが、だった。それでも彼はこう言い加えたのだった。
「けれど。できないとわかったら」
「その場合は」
「諦めてね」
「諦めるんだ」
「そう。そして別の道を選ぶべきだよ」
「できることをなんだ」
「そう。自分ができることをね」
そして別の道を歩むべきということがだ。十字の考えだった。
「僕は。そう教えられた
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