第九話 聖バルテルミーの虐殺その一
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第九話 聖バルテルミーの虐殺
和典が部室でだ。十字に尋ねてきた。
「ところで佐藤君の絵って」
「僕の描く絵が一体」
「よく過去の名画を模写しているけれど」
「そのことについて」
「うん、随分と描くのが速いね」
彼の筆の速さについてだ。十字に尋ねたのである。
「そう描けるコツはあるのかな。僕描くのが遅くて困ってるんだ」
「僕が描くことが速いのは」
それは何故かとだ。十字は和典のその問いに答えた。
「それは子供の頃から描いていて」
「子供の頃から?」
「そう。描き慣れているから」
それでだというのだ。
「そのせいだと思うよ」
「子供の頃から絵を描いていたんだ」
「僕は。子供の頃一人だったから」
表情を変えずにだ。言う十字だった。
「絵ばかり描いていたんだ」
「一人だったって」
「そう。お父さんとお母さんは僕をすぐにね。教会に送ってくれたんだ」
「そういえば君は教会に住んでるよね」
「教会が僕の家だよ」
十字にとってはだ。まさにそうなのだ。
「神の御前がね」
「そうなんだ。じゃあ今君がいる教会も」
「そうだよ。僕の家だよ」
「成程ね。けれどご家族は」
「いるよ」
それはいるというのだ。
「お父さんとお母さんはね。そして僕に愛情も注いでくれたよ」
「いい家族だったのかな」
「そうなると思うよ。ただ」
「ただ?」
「僕は長男ではないから。その関係もあって」
「教会に入ったんだ」
「家は兄さんが継いだよ」
そうなったとだ。十字はここで自分のことを和典に話したのだった。
「イタリアにある家はね」
「ふうん。家を継ぐっていうと」
「それはどうしたかというんだね」
「いいお家?貴族か何か?」
「そう。爵位はあったよ」
そうした意味で貴族の家だと。答える十字だった。
「侯爵のそれが」
「侯爵?確か公爵の下の」
「その爵位は知ってるね」
「高い方の爵位だったよね」
和典は戦前にあった華族の爵位から考えていた。戦前の日本にはそれがあったのだ。そして華族院というものもあった。イギリスの二院制に近かったのだ。
「そのお家だったんだ」
「今では爵位はないけれど」
「それでも家柄はなんだね」
「欧州では貴族制度はまだ残っているんだ」
爵位のない国が増えてもだ。そうした階級意識は根強いのだ。
「だから。僕の家も」
「そういうことなんだ」
「そう。そして僕は次男だから」
「教会に入ったんだ」
「教会の方に。請われて」
そしてだというのだ。
「教会に入ったんだ」
「スカウトされたんだね」
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