第三十二章 寝そべって、組んだ両手を枕に心の星を見上げる
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「お、姉、ちゃん……」
それは間違いなく、明木史奈の声であった。
幼い声が、アサキたちの脳内に直接、生じて響いていたのである。
「フミ! フミ! 聞こえる? お姉ちゃんじゃ! お姉ちゃんはここじゃ! ここにおるよ!」
きょろきょろ見回して、どうなるものでもないのだろう。
だけども明木治奈は、悲痛な顔で首を動かし、真っ白な雲の中に妹の姿を見つけようとしている。
「こ、これは、ど、どういう、ことなの?」
突然の不思議現象に、アサキの顔がぺたぺた貼られた疑問符のシールだらけになってしまっていた。
「単なる偶然です。疑似思考を処理する量子ビット配列の、物理的な、つまりは素子反応を、あなたたちが捉えて声として認識したのです」
ブロンド髪の少女、ヴァイスが淡々とした口調で説明する。
アサキ、ヴァイス、治奈、カズミ、四人は綿菓子雲を思わせる濃密な気体に包まれている。
その綿菓子雲こそが反応素子、超次元量子コンピュータにおいてコンピューティングの根幹たるスイッチングという概念を実現するための物理媒体である。
宇宙のどこにでも存在する物質であるが、コンピュータの中心に近付くほど演算が活発になるために、白く濁って雲のように見える。
史奈の意識シミュレートを演算した反応素子と、偶然に同調した彼女たちは脳に直接その演算結果を受け取って、処理された入力結果を音声として認識した。と、ヴァイスは説明したのである。
「無事、なんだよね、生きているんだよね、お姉ちゃん!」
彼女たちの中に響く、史奈の声。
「おう、無事じゃ! フミのお姉ちゃんは強いけえね。簡単にゃあくたばらん」
治奈は自分の胸をどんと叩いた。
「どこにいるの? どうして、帰ってこないの?」
「ごめん。いまは、いえんわ」
話したところで、信じられるはずがない。
無駄に恐怖を与えても、仕方ないというものだろう。
「また、会えるんだよね、お姉ちゃん」
「会える。必ず、また。……約束じゃけえね」
治奈は、潤んだ目を袖でごしごし、にんまり笑顔を作った。
と、そのすぐそばで、
「よかっ、た。……ぶ、無事、無事でっ、フミちゃん……」
アサキが、治奈よりもっと目を潤ませて、いや堪え切れずに涙がボロボロボロボロ。完全に、泣きモードに入ってしまっていた。
「なあんで、お前の方が泣くんだよお!」
突っ込み入れるカズミであるが、むしろ引き金の言葉になってしまったようで、
「だ、だって、だって、か、仮想世界は残っている、といわっいわれて、もっ、ほ、ほ、本当かなんて、ひぐっ、わ、
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