暁 〜小説投稿サイト〜
魔法使い×あさき☆彡
第三十二章 寝そべって、組んだ両手を枕に心の星を見上げる
[8/14]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
だよ」

 アサキは、抱き着いていた。
 自分自身も大泣きの涙痕がくっきり浮いているくせに、優しい笑みを浮かべて、そっと優しく、ぎゅっと強く、ポニーテールの少女を抱き締めていた。

「お、おい、アサキ!」

 びっくり慌てて、身をよじって離れようとするカズミであるが、

 アサキが、離さなかった。
 ぎゅうっと、より抱き締める力を腕に込めていた。

「データなんかじゃない。現実なんだよ。……これまでも、そして、これからも。わたしたちは、現実に生まれて、現実を生きていくんだ」
「……そうだよな。ちったあマシなこというようになったじゃんよ」

 抱き締め返すカズミ。
 嬉しさに溢れた、でもちょっと恥ずかしい、そんな表情で。
 ただしそれは、ほんの一瞬だけの表情だった。アサキの様子の変化に、カズミの顔には驚き、疑問、焦り、不安といった色が生じていた。

「アサキ……」

 優しい笑顔が、なんとも苦しげな、なんとも悲しげな、なんとも辛そうな表情へと変わっており、カズミも色々と共感してしまったものだろう。

 アサキは、表情の変化のみならず息も荒くなっていた。
 この人工惑星に酸素はなく、実際には呼吸はしていないが。精神の乱れが仕草に現れて、そう見えるのである。

「過去も、未来も現実だ……現実、だけど……でも、でも、でもわたしは!」

 はっきりと、混じり込んでいた。
 乱れる吐息の中に、苦痛の声、苦悩の声が。
 いまにも叫び出しそうな、いまにも泣き出しそうな顔で、アサキはぐううと呻いた。

 わたしは……

 この世界が現実だけど、自分たちが生きてきた世界も現実だ。
 だけど、そう認めるということは、つまり自分は人間ではない、ということになるのだ。
 合成生物(キマイラ)であるのだ。

 それだけならば、構わない。
 自分だけのことだ。

 だけど、わたしの身体は……
 絶望し、世を呪い、死んでいったたくさんの人たちを、合成し、生み出された存在。
 いつか、(オルト)ヴァイスタ化させるために。

 吹っ切れたつもりでいた。
 吹っ切れてなどいなかった。

 こちらの世界へと来たことで、
 自分がいた世界が仮想世界であると知ったことで、
 その真実を、その呪いを、うやむやに出来る。
 無意識に、少しでも、そう考えて、楽な気持ちになっていた。
 でも現在、その安心した思いの絶対値がそのまま、いやむしろ数倍加して現在の自分を激しく攻撃していた。

 自分のせいで、義理の両親が死んだ。
 たくさんの人たちが、死んだ。
 自分は人間ではない。
 呪われた、合成生物(キマイラ)

 カズミちゃん、治奈ちゃん、他の、みんなのいた、あの世界を、現実である
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ