第三十二章 寝そべって、組んだ両手を枕に心の星を見上げる
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だよ」
アサキは、抱き着いていた。
自分自身も大泣きの涙痕がくっきり浮いているくせに、優しい笑みを浮かべて、そっと優しく、ぎゅっと強く、ポニーテールの少女を抱き締めていた。
「お、おい、アサキ!」
びっくり慌てて、身をよじって離れようとするカズミであるが、
アサキが、離さなかった。
ぎゅうっと、より抱き締める力を腕に込めていた。
「データなんかじゃない。現実なんだよ。……これまでも、そして、これからも。わたしたちは、現実に生まれて、現実を生きていくんだ」
「……そうだよな。ちったあマシなこというようになったじゃんよ」
抱き締め返すカズミ。
嬉しさに溢れた、でもちょっと恥ずかしい、そんな表情で。
ただしそれは、ほんの一瞬だけの表情だった。アサキの様子の変化に、カズミの顔には驚き、疑問、焦り、不安といった色が生じていた。
「アサキ……」
優しい笑顔が、なんとも苦しげな、なんとも悲しげな、なんとも辛そうな表情へと変わっており、カズミも色々と共感してしまったものだろう。
アサキは、表情の変化のみならず息も荒くなっていた。
この人工惑星に酸素はなく、実際には呼吸はしていないが。精神の乱れが仕草に現れて、そう見えるのである。
「過去も、未来も現実だ……現実、だけど……でも、でも、でもわたしは!」
はっきりと、混じり込んでいた。
乱れる吐息の中に、苦痛の声、苦悩の声が。
いまにも叫び出しそうな、いまにも泣き出しそうな顔で、アサキはぐううと呻いた。
わたしは……
この世界が現実だけど、自分たちが生きてきた世界も現実だ。
だけど、そう認めるということは、つまり自分は人間ではない、ということになるのだ。
合成生物であるのだ。
それだけならば、構わない。
自分だけのことだ。
だけど、わたしの身体は……
絶望し、世を呪い、死んでいったたくさんの人たちを、合成し、生み出された存在。
いつか、超ヴァイスタ化させるために。
吹っ切れたつもりでいた。
吹っ切れてなどいなかった。
こちらの世界へと来たことで、
自分がいた世界が仮想世界であると知ったことで、
その真実を、その呪いを、うやむやに出来る。
無意識に、少しでも、そう考えて、楽な気持ちになっていた。
でも現在、その安心した思いの絶対値がそのまま、いやむしろ数倍加して現在の自分を激しく攻撃していた。
自分のせいで、義理の両親が死んだ。
たくさんの人たちが、死んだ。
自分は人間ではない。
呪われた、合成生物。
カズミちゃん、治奈ちゃん、他の、みんなのいた、あの世界を、現実である
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