第三十二章 寝そべって、組んだ両手を枕に心の星を見上げる
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てきたので、彼女たちは素子反応を拾おうとする意識のスイッチを切った。
戻るは静寂。この人工惑星に空気はなく、本来の音という意味ではもとから静かであったが。
「うちの声も、ちゃんとフミに届いのたじゃろか」
治奈は泣き出しそうな顔で、白い衣装の少女ヴァイスの顔を見る。
たったいままで会話をしていたばかりだというのに。自分の脳内だけのことではないか、などと不安なのだろう。
「届きましたよ。といっても、妹さんはおそらく夢の中でしょうけど。……治奈さんは、妹さんにとても愛されていたんですね」
「何故? あ、いや、絆は最強じゃよ、うちの家族は」
声が届いたことが、愛されていることとどう関係するのかを、問おうとしたのだろう。
でも、言葉の裏にちょっと不快な要素を感じ、はぐらかしたのだ。
「こちら側にとっては、ただの素子反応ですが、向こうの世界では夢の中や、深層心理といった無意識下でのみ、現実世界と接触することが出来るのです。正夢とか、神託が、とか、そういった具合にね。そうした世界観の設定ではあるため、基本は片方向。会話など双方向の通信をするためは、向こう側に、ある程度の強い思いが必要なのです。思いの強さといっても、量子配列に基づく疑似感情への方向性の作用であり、そういう意味では本人の資質や努力とはまったく異なるものですが」
「難しいな。思う気持ちが強い、というところだけ受け取っておくけえね。……そがいなことよりも、その『設定』ってい……」
「その『設定』とか『疑似』とかいうの、やめてくれないかな」
治奈の言葉に被さったのは、アサキの声。おそらく同じことをいおうとしたのだろう。
大きくはないが、明らかな怒気を孕んだ、震える声だった。
「わたしたちは、わたしたちの現実を必死に生きてきたんだ。正香ちゃんの、ヴァイスタ化する恐怖。わたしには、どれだけのものであったか、想像も付かない。彼女と大喧嘩しちゃって仲直りしようとしていた、成葉ちゃんの純粋な気持ち。でも親友がヴァイスタになっちゃって、そのヴァイスタに襲われ、殺された。どれだけのショックだったか、怖かったか、悲しかったか。……ウメちゃんの、自分が砕いてしまった妹さんの魂を、なにがなんでも助けようとしていた、優しく、必死な思い。ことを為せず、朽ちる無念。……わたしだって、わたしだって、修一く……義理の両親を、目の前で殺された。身がよじれるどころじゃなく、消え去りたくなるくらい、世界がどうなっても構わないと思うくらいに、辛かったんだ」
一呼吸、アサキは続ける。
「この気持ちが、偽物なはずがない! だって、そうでしょ? わたしたちがそう思うというだけでなく、実際に、本物の世界を、作ったんでしょ?
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