第三十二章 寝そべって、組んだ両手を枕に心の星を見上げる
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満げに唇をとがらせた。
「え、え、そ、そんな、こといわれても……」
もちろん漠然とは考えていた。
自分は恋愛に疎く、あまり興味もないけれど、一般常識的に、いつかは誰かと新たな家庭を築くことを。
でもそれは、なんにも知らなかったから。
現実がこんな世界だなんて、知らなかったから。
宇宙が終わり掛けていて、地球ももうないだなんて、知らなかったから。こんな、滅び掛けた、生命の存在しない宇宙だなんて。
自分たちが生活していた超次元量子コンピュータによる仮想世界が、仮に誰もが認める現実であったとしても、でも、ならばわたしは合成生物なわけで。
でも人間だ。って、思ってはいるけど、やっぱり生物学的には人間じゃないわけで。
「いつか、するんだろうな、って、思っては、いたけど……」
叶って、いただろうか。
世界がこんなでなく、わたしが合成生物でなかったならば。
どんな人と、結婚していたんだろうな。
どんな家庭を、築いたんだろうな。
まあ、いいや。
ないことを考えても仕方ない。
と、その話は自分の中で終わりにしようと思っていたのに、
「何歳で? 相手の職は? 顔のタイプは? 子供は何人? 男? 女? マンション派? 一戸建て? 変態性癖どこまで許せる?」
カズミが、まったく離してくれない。
それどころか、やたら具体的に、しつこく聞いてくる。
「え、に、二十五、までには。あっ相手はっ、えっと、普通の、サラリーマンで。……ふ、二人くらいかな。男の子と女の子、一人ずつ。でも、でも……」
でも、わたしたちは……
ここは……現在は……
わたしは……
「でもじゃねえよ! 願えばなんだって叶うんだよ! あたしたちは、魔法使いなんだぞ!」
願えば、叶う。
わたしたちは……
「あっと、えっと、いまのちょっといい直すな。……女の子はみんな、魔法使いなんだ!」
しーん。
静寂が訪れていた。
せっかく暗闇じゃなくなったのに、暗闇にいるかのような静かさだった。
カズミが一人で盛り上がるのはよいが、隣で寝そべる治奈とアサキはついて行かれずに、唖然呆然と口半開きになってしまっている。
その凍った空気にはっと我に返ったカズミも、口を開いたまま黙ってしまった。
だが、どれくらいが過ぎただろうか。
ぷっ
アサキが、吹き出した。
あははは笑い出した。
足をバタ付かせながら、無邪気な顔で。
その首に、
「ギロチンドロップ!」
顔を赤らめたカズミの踵が、ガスリ振り下ろされた。
「むぎゃ」
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