第21節「従者の責務」
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八紘。
現在、娘と疎遠になっている事情をある程度知る身としては、今の翔が父親の姿と重なってならない。
それがあまりにもいたたまれない。だから、春谷は告げる事を決めたのだ。
「ですから響様。今後、また今回のような事になった時には、翔様の心が和らぐように、手を取っていただけないでしょうか?」
手段はなんでも構わない。
手を握るだけでもいいし、肩が触れる距離に立つだけでもいい。あるいは抱擁して、または腕を絡めてでもいい。
とにかく、翔が肩の力を抜けるようにすること。
かつての姉にそうしていた、橙色の片翼と同じように。
真面目が過ぎるばっかりに、ポッキリと折れてしまわぬように。
「わかりました。翔くんが戻ってきたら、早速そうしてみます」
「ええ、是非とも……翔様をよろしくお願いします」
自然と笑みがこぼれる。
心にのしかかっていた重荷が降りたように微笑む響と、釣られて微笑む春谷。
静かな医務室に、和やかな雰囲気が漂っていた。
「あ〜!春谷さんズルい!」
そこへ、新たな来客が訪れる。
見るとそこに居たのは、医療スタッフの制服に身を包んだ、黒髪セミロングの職員だった。
「姫須さん、今までどちらに?」
「どちらにってそりゃあ、響ちゃんが目を覚ましたんですよ?答えは一つしかないじゃないですか〜」
そう言って医療スタッフ、姫須晶は、廊下から台車を引っ張ってきた。
台車の上に用意されていたのは、味海苔が巻かれたおにぎりの山だ。
「こっ、これは!おにぎりだーッ!!」
「寝てる間はずっと点滴だったし、お腹空かせてるだろうな〜と思ってたので、用意してきました」
「姫須さん、ありがとうございますッ!!早速食べちゃってもいいですか?」
「もちろん!ジャンジャン食べちゃって〜!沢庵とお味噌汁も用意してるから!」
「やった〜〜〜ッ!いただきまーすッ!!」
「病み上がりなんですから、あんまり一気に食べないでくださいね」
数日ぶりのご飯を口いっぱいに頬張る響の姿に、彼女を陰ながら見守る大人2人は、静かに微笑んだ。
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