第21節「従者の責務」
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輪の方を見ると、そこにあったのは長く伸びる“脚”だった。
車輪が折り畳まれ、代わりに出現した計4本の細脚。
更に前方の赤いカウルが変形し、細長い逆三角形の顔へと変わる。
白いバイクは機械的なディテールを残したまま、一瞬にして白馬へと形を変えた。
「う、馬になったぁぁぁッ!?」
「宛然、北欧神話の神馬スレイプニルだ。普段は目立たぬよう、現代に合わせた外観になってもらっているが」
驚く翔に淡々と告げるグリム。
スレイプニルは四足歩行となってなお、全く速度を落とすことなく加速していく。
「離さないよう気をつけるんだ。飛び越えるぞ」
「飛び越える……?」
言葉の意味は分からないが、翔は言われた通りグリムの背にしっかりとしがみつく。
直後、スレイプニル前方の空間が捻れるように歪み、光り輝くゲートが現れた。
「空間、跳躍ッ!!」
グリムの言葉と共に、スレイプニルはゲートの中をくぐり抜ける。
スレイプニルの尾の先までが吸い込まれた直後、ゲートは閉じ、捻れていた空間は何事も無かったかのように元に戻った。
ff
目を覚ました響は目の前に広がる天井を見上げていた。
何度も世話になっている医務室の照明に、自分の掌を掲げる。
「大切なものを壊してばかりのわたし……。でも未来は、そんなわたしに救われたって励ましてくれた」
眠ってる間に見た、あの頃の悪夢。
蒙昧な無辜の人々から罵られ、貶され、石を投げられた日々。笑顔の消えた家族。
そして──そんな惨状に耐えきれず、酒に溺れた末に蒸発した、父の背中。
家族をバラバラにしてしまったのは、あの日のライブ会場に行ってしまった自分自身だと、響はずっとそう思いながら生きている。
そして、今度は隣で支えてくれると言ってくれた、大好きな男の子さえも……。
それでも、いつも一緒に居てくれる幼馴染はあの時、確かに叫んでくれたのだ。
『伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないってわたしは知ってるッ!……わたしだから知ってるッ!だってわたしは、響と戦って──救われたんだよッ!』
『わたしだけじゃないッ!響の歌に救われて、響の手で今日に繋がってる人、たくさんいるよッ!だから怖がらないでッ!』
誰より信頼し、誰より自分を知っている彼女がそう言ったのだ。立花響は、それを信じて疑わない。
「未来の気持ちに答えなきゃ……。……あ」
身体を起こし、胸元に手を当てて……そして、胸元にあるべきはずのペンダントがない事に気がついた。
「……」
胸の歌を、取り戻したばかりなのに。
奏さんから、そしてマリアさんから受け継いだ、大切なものだったのに。
ガングニールが砕かれてしまった現実に、思わず頭を垂れた。
……その時
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