第123話『夏祭り』
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を上げるのもわかる。
──そして、花火の彩光に照らされるその横顔が、たまらなく愛おしく思えた。
「結月」
「うん?」
「あっいや」
思わず口をついて出てきてしまった彼女の名前。それはもはや口の中だけで呟いたようなもので、さらにこの花火の轟音の中では声はほとんど届かないはず。それなのに、結月は聞き逃してくれなかった。
夜空の中でも青空を見ているかのような、その蒼い瞳に吸い込まれるように彼女と視線が合った。雪のように白い肌は、暑さで火照って頬が紅潮しているのがよく映える。
──頬が紅いのは、自分も同じかもしれない。きっとこれは暑さのせいだけではないだろう。
「?」
結月はきょとんとした顔でこちらをなおも見つめてくる。
そういえば、林間学校で彼女と花火を見た時、約束というかお願いを1つされていたのだった。
『次は、ハルトからしてくれると嬉しいな』
この目的語に当たる行為を行なうには、今がまさに絶好のチャンスではなかろうか。前回と同じタイミングではあるが、シチュエーションが違うのでたぶん大丈夫。拒否されることは……ないはず。
「え……あ」
晴登はこちらを向いている結月の左肩に右手を置いた。結月は一瞬驚いた声を上げたが、その行為の目的をすぐに理解して、晴登の方を向いてから瞳を閉じる。そこまで準備万端だと逆にやりにくいのだが。
喉を鳴らし、一度呼吸を挟んでから徐々に顔を近づける。顔と顔との距離が近づくほど心臓の拍動が速くなり、緊張で頭が真っ白になった。
いつもは結月からだったから知らなかったが、キスするためにはこんなに顔を近づけなければいけないのか。囁き声が聴こえる距離よりも、息がかかる距離よりもさらに近い。すなわちゼロ距離である。
彼女の白くてきめ細やかな肌を観察できるくらいには近づいたが、まだ足りない。もう少し、もう少し近づいて──
「「いてっ」」
いざ唇が触れ合うその瞬間、2人の呻き声が重なる。正面から近づいていたせいで、唇よりも先に鼻をぶつけてしまったのだ。
何という結末。最後まで締まらない。
「そんな……」
「ふふ、残念」
失敗したというのに、彼女はどこか嬉しそうである。
すると何の躊躇いもなく、お手本だと言わんばかりに晴登の唇を奪った。そのあまりに慣れた所作に呆気に取られる。
「次は期待してるよ」
そう言って、結月は小悪魔のような笑みを浮かべる。
結局は軽く触れただけのキスだったが、さっきの失敗を含めて、晴登にとっては何十秒もの濃密な時間に感じられた。
──やっぱり、彼女には敵わない。
「──もう、私の入り込む余地はありませんね」
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