第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師 その4
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東ドイツ・ポツダム
ユルゲンたち一行は、正午ごろベルリン市内から、ポツダム市に移動した。
車は、サンスーシ宮殿の脇を通り抜け、ゲルトウにある建物の前に乗り付ける。
その場所は、東独軍の参謀本部。
車が止まると、ドアを開けて、彼等は勢いよく飛び出した。
庁舎の中に入るなり、向こうから歩いてきたハイゼンベルク少尉とばったり会う。
彼女から敬礼を受けた際、呼びかけた。
「丁度良い。参謀総長の所に連れて行ってくれないか」
そう告げると、ユルゲンは、ハイゼンベルクの右肩に手を置く。
「参謀総長ですか……」
満面朱を注いだ様になった彼女の顔を一瞥した後、右手を両手で包む様に持ち上げる。
「これから騒がしくなる。参謀総長にも話を通しておくのが筋だろう」
ヤウクは、その様子を見て、しばし困惑した。
「参謀総長に自分から乗り込んでいくのか……」
ユルゲンは、同輩の方を振り返ると、呟いた。
「恐らく参謀総長も俺に会いたがってるはずだ……」
照れを隠すように笑みを浮かべたハイゼンベルクは、ユルゲンの右手を掴んだ儘、導くように歩き出す。
「さあ、行きましょう。恐らく同志将軍達も待っておられる筈です」
ハイゼンベルク少尉に連れられながら、ユルゲンは、ふと考えた。
人民軍情報部は軍内部にある機関で、「プラウダ」等の分析など受動的な情報収集を行う部署。
駐留ソ連軍の奇妙な行動は、寝耳に水であろう。
外国雑誌を情報源にする彼等には、とても確認できる話ではなかった。
もっとも、ユルゲン自身も、生の情報を得たわけではない。
只、彼等の偽情報工作や暗号運用の能力の高さ……
ソ連留学の経験から、身をもって知っているつもりだ。
米国議会をして、アラスカの領土租借計画を立てさせるほどの辣腕を振るったKGB。
今回の事件にも、おそらく無関係ではあるまい……
KGBは度重なるソ連国内の権力闘争で生き残って来た猛者たちが操縦する機関。
白刃の上で、辛うじてバランスを取る連中……
無論、この件にも、シュタージは無関係ではあるまい。
表立って、反ソ傾向の強かったベルリン派の残党が動き出したのだ。
間違いなく、KGBに動きがあったと言う事だ。
今の議長の方針に対して、KGBの助力を得て、謀反を起こしたシュミット。
彼も、恐らくはKGBの間者だったのではないのか……
あの反乱がなければ、今も工作部隊ごとにKGBの連絡将校が配属されて、此方の事情は今以上に筒抜けだったであろう。
とんでもない魔窟に、あわや愛する人を送り込む寸前であった。
その事を改めて、悔恨した。
英米に比べて科学技術も軍事力も劣るソ連が唯一誇れるものは、何か。
地下破壊工作や、極左暴力集団への援助、諜
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