第七話 老婆の肖像その十五
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「あれ昔は煙草屋で普通に売ってたのよね」
「そうらしいな。私もそれは見たことがないが」
「麻薬が普通に売ってたのね」
「当時はな」
終戦直後の話だ。谷崎潤一郎の小説『細雪』でもそのヒロポンを打つ場面がある。当時はわりかしポピュラーでだ。打っている者も多かったのである。
そのヒロポンに興味を持ちだ。雪子はさらに問うた。
「そうらしいな。ただ」
「ただ?」
「雪子の気に入るかどうかはな」
「それは別なのね」
「麻薬も好みがあるからな」
だからだというのだ。
「御前にヒロポンが合うかどうかはだ」
「やってみないとわからないんじゃないの?」
「そういうことになるか。ではか」
「ええ。やってみるわ」
期待している笑みでだ。雪子は叔父に返した。
「一度ね」
「わかった。では帰ってだな」
「ヒロポンね。使ってみるわ」
「そしてだな」
「それからベッドに行くから」
叔父のその下種な笑みを浮かべた顔を見ながらだ。雪子は今度は妖艶な笑みを浮かべてみせた。それはおよそ高校生とは思えないものだった。
しかもそこにはえも言われぬ邪悪さもあった。その妖艶さと邪悪さのままでだ。叔父に言ったのだ。
「叔父様はその前にね」
「シャワーを浴びておくな」
「そうしておいて。私は一度した後で浴びるから」
「最初は浴びないのか」
「もう学校でね。お昼に浴びたのよ」
「おや、そうだったのか」
「あの四人を相手にしたから」
こう言うのだった。
「暇潰しにね。そうしたのよ」
「成程な。それでか」
「そうよ。いい暇潰しになったわ」
「やれやれだな。淫蕩な姪を持つのも大変だ」
「叔父様もその姪に感謝してるんじゃなくて?寝てくれる姪に」
「ははは、それもそうだ」
由人は好色そのものの笑みで雪子の今の言葉に応えた。
「確かにな」
「そうよね。では今夜はね」
「私の屋敷でな」
「しましょう」
こう話してだ。二人はその十階の理事長室から消えたのだった。二人はこの会話を誰にも聴かれていないと思った。しかしだった。
盗聴器、それに隠しカメラが備えられていた。そしてその一部始終をだ。
十字は観て聴いていた。そのうえでだ。共にいる神父にだ。こう言うのだった。
「聴いたね」
「はい、そして観ました」
「実に醜いね」
感情は込められないままだが。十字は述べた。
「実にね。本当に」
「そうですね。良心が見られません」
「良心のない人間もいるよ」
世の中にはだ。そうした輩もいる、それは十字が最もよくわかっていることだった。
それでだ。彼はこう言ったのだった。
「邪心のない人間もいる様にね」
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