第10章 アルバレス帝国編
第49話 緋色の絶望
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だけは、娘だけは助けてくれ…」
トーマの懇願に近い言葉は、無残にもアイリーンの放つ赤き稲妻のような魔法に破られる。
その赤い稲妻はヒスイを襲う。
「あああああッ!!!!」
「ヒ…ヒスイー!!」
「ひ、姫様!!」
ヒスイはその赤い稲妻のような魔法を受け、悲鳴をあげる。そんなヒスイの姿を見て、トーマとアルカディオスが悲鳴に似た声を張り上げる。
そんな折、ヒスイの身体が真っ白な煙を上げる。なんと、こともあろうにヒスイの姿は人間のそれからネズミの姿へと変化を遂げる。それを見たトーマは絶望に似た表情へと変える。
「な…なんてことを…」
ヒスイは、小さい翡翠色のネズミの姿でポロポロと涙を零す。
「姫様が…ネズミに…」
「ヒ…ヒスイ…」
トーマは床に手を着き、ネズミになったヒスイに消え入るような声で言葉を掛ける。そんなトーマに向け、アイリーンはドスの効いた声を浴びせる。
「その姿でも愛せるか?娘を愛せることはできるか?」
アイリーンの言葉に、トーマは小さいネズミ、ヒスイを掬い上げる。
「あたりまえじゃ…どんな姿になろうと…わしの娘…!ヒスイよ…必ず元の姿に戻してやるからな…」
決意したようなトーマの言葉に、アイリーンは浮かべていた不敵な笑みをやめ、表情を真顔へと戻す。
「そう、ならいいことを教えてあげましょう…もとに戻す方法は2つ…。私が死ぬか、愛する男との接吻…そのどちらかよ…」
アイリーンの言葉に、トーマたちは目を見開く。そして、トーマも、アルカディオスも、ネズミとなったヒスイもある一人の男を思い浮かべる。
「…あなたたちでは私を殺せない…そして、その娘が愛する男も、その娘を愛していなければならないの…。さて、卑しきネズミとなったその娘を、その男は愛してくれるのかしら?…心の底から…」
アイリーンはそう呟き、またも不敵な笑みを浮かべる。トーマとヒスイに、絶望に似た表情が生まれる。
「き、貴様…」
アルカディオスは、怒りを露にしながら言葉を漏らす。そんなアルカディオスの言葉に反応することなく、アイリーンは玉座の間から城下を見下ろす。そして、オレンジ色の結界に目を奪われる。
「…それにしても、すごい結界ね…さすがはアレン・イーグル…」
アイリーンはそう言って結界に自身の魔力を付加させる。先ほどまでバルファルクの攻撃を一切通さなかった結界が、いとも簡単に消え去ってゆく。
「でも…1万km以上彼方へいるとなると、いくらアレンでも結界の維持は難しいみたいね…」
「なっ…アレン殿の結界が…」
凄まじいまでの結界が一瞬で消失したことに、アルカディオスは目を見開いて動揺する。
ヒスイも、消えゆく結界と自身の姿に絶望し、涙を流した。だが、小さきネズミとなったヒスイの目から零れる涙は、その感情と反し、雨粒程度のモノであった。
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