(壱)長い夜
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知している。
なのにアスカは、将棋が取った駒を再利用出来るところが気に入らない。
『裏切るなんて、美しくないわ・・・・趣味じゃない・・・』
それが“裏切り”行為と重なって見えるらしいのだが、何故アスカがその事に異様に神経を尖らせるのか・・・・・アスカを幼い頃から見てきた加持でさえ、その理由はわからなかった
・・・・しかも
アスカはタダでは転ばない
盤上に放たれた駒は、マジックで一つ残らず
『Verraeter!!(裏切り者!!)』
と、したためられた。
最も悲惨だったのは加持に取られた後にアスカを投了に追い込んだ飛車だった。
裏切りと敗北の悔しさで顔を真っ赤にしながら『負けました』と言って投了した後、加持のグラスに注がれたスコッチの中に飛車を放り込み、火を放った。
さすがの加持も、これにはびっくりした。
あわてて火を消し止めたものの、飛車は黒焦げの焼死体となっていた
“裏切りは万死に値する”
それ以来、アスカは二度と飛車を使わなくなった・・・・というか、飛車は一個しかなくなってしまったのだが。
他の駒も、一局打つたびにアスカか烙印を押すので、王将以外の駒は皆“耳なし法一”のようになってしまい、この三ヶ月間でもはやどれが何の駒だか見分けがつかなくなっていた
『戦いは、勝つか負けるかよっ!・・・敵の軍門に降ったら潔く首を刎ねられるべきだわっ!!』
鼻息を荒くするアスカに、加持ははぁと溜息をつく
《・・・やれやれ・・・それじゃあ“お姫様”じゃなくて“ハートの女王様”だよ・・・》
その度に加持は苦笑した。だがこのようなアスカの奇行を笑って受け止められる自分を不思議にも思っていた。並みの男ではとても付き合いきれないだろう。
《・・・・何故だろうな・・・・アスカが何をしても、まるで怒る気がしない・・・》
『・・・・静かだな・・・・』
加持は、子供の相手をするのに少し疲れたようだった。寝返りを打ち、アスカに背を向ける。
目の前には、夜の海に反射した月の灯りが波の間に間にゆらゆらとゆらめいていた
《・・・・将棋の・・・駒・・・・か・・・・・》
”裏切り者!!”
・・・アスカの言葉が加持の心に突き刺さる。
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