第二部 1978年
影の政府
米国に游ぶ その1
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おろか)であった。
愚かしさよと、ようやく、身の内で落ち着かせる雰囲気を作り上げていた。
さて翌日。ベルリンのシェーネフェルト空港は見送りの人でごった返していた。
9月の第3火曜日に開催される国連総会に向け、議長が出発する為である。
「お前たちもこんな所まで見送りに来なくていいのに」
ユルゲンは困惑したような声を出し、アイリスディーナとベアトリクスの方を向く。
「兄さん、忘れ物は」
「昨日の夜の内に確かめたし、今朝もう一度確認した」
これはまずいと、妻のベアトリクスはすぐ覚ると、ユルゲンの顔色を見て、
「大丈夫よ。もうこの人は大尉だから。士官学校を出たばかりの、その辺の新品の少尉と違うわ」
と軽く笑いながら、アイリスをあしらうと、
「向こうに付いたら、一度連絡をくれれば良いわ」と、袖をつかんだ。
瞳の奥に愁いを湛えたベアトリクスは、何時になく蠱惑的だった。
化粧をした頬を赤く染める姿などは、実に妖しいばかりに見える。
ソ連留学の時もそうだが、ベアトリクスは、気丈にも涙さえ浮かべず、笑って送り出してくれた。
彼女の男まさりな気強さも、その胸の深い所は別にして、知らぬ人には冷酷に見えよう。
ユルゲンは、じっと無言のまま、彼女の情念の炎を点した赤い瞳を見つめていた。
しばらくして、ユルゲンは、かたくなっていたアイリスを落ち着かせようと、
「心配するな、アイリス。俺もお前も幼弱の頃から海外暮らしの方が長かった。
ニューヨークの廃頽的な暮らしも、直ぐなれるさ」
「ハーレムの黒人街やクイーンズの南京町などには近寄らぬようにしてくださいね」
「揶揄っているのか。もうすぐ父親になる男にかける言葉ではないだろ。
たしかにコロンビア大学のキャンパスはマンハッタン島にあるが、住むのはニューヨーク郊外の地区だ。
そこに民主共和国名義で借り上げた宿舎がある。
何なら隣のニュージャージに、誰かと一緒にルームシェアして住むさ」
「今の所、一番危険なのは兄さんですからね。CIAやFBIが近づいてこないとも限りませんし。
彼等の命を受けた、どんな美人が言い寄って来るのか、不安です」
興奮を隠さないアイリスディーナの事を、ユルゲンは抱きすくめ、
「大丈夫だって、安心しろよ。平気、平気だから。お目付け役が付いているしさ。
俺は逆にお前が心配だよ。研修が終わった後、来年1月からどこに行くんだっけ」と、訊ねた。
「誰ですか、兄さんにつく護衛は」
兄は笑って答えなかった。知らない様だった。
「ヤウクさんもカッツェさんも、アメリカには行きませんよ。
ヤウクさんは、兄さん
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