第二部 1978年
影の政府
米国に游ぶ その1
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んでいた、国家保安省を監視する案を放棄せざるを得なかった。
なんで、妊娠した娘を、秘密警察という、その様な剣の中に送れようかと。
いくら、忍人とは言えども、自分の娘と孫は可愛いのである。
その愛の深さは、彼女がユルゲンと共に行くはずだった渡米留学にも影響した。
まだ妊娠安定期にも入らない娘を、米国のニューヨークに送り出す等とはと、議長に迫ったのだ。
昔馴染みの男の申し出も無下に出来まい。軍の方で、だれか目ぼしい人間を立てて欲しい。
そう、自分とシュトラハヴィッツ将軍に行ってきたのだと、語った。
「まあ、次官には初孫であるし、娘さんもまだ長期出張などで耐えられる体ではないから……」
「それでわたくしが……」
「君も知っての通り、同志ベルンハルトはモテる。老若男女問わずだ」
「はい」
「そこで、ここは一つ、君に護衛任務に就いて欲しいのだよ」
「……護衛任務ですか」
何を思ったのか、参謀総長が立ち上がり、執務机の方に向かう。
引き出しから、ファイルを取り出し、老眼鏡で眺めながら、
「同志ハイゼンベルク、君は婦人兵にしては拳銃の成績も、シモノフ半自動銃の成績も良好だ。
そして、衛士になる転属申請も、しているそうじゃないか」
「いえ、いえ、わたくしには出来ません」
マライは、手を振った。
「ブレーメ嬢が怖いのか。その辺は本人を呼んで、私が説得する」
と、顔を上げた、参謀総長が自信満々に答えた。
ベアトリクスが参謀本部に乗り込んで、珍しく悶着を起こしたのを覚えていたマライは、
「あの方の恐ろしさを存じないのですか」と、初めてうろたえの色を現した。
彼女は、ユルゲンと親しくなればなるほど、ベアトリクスの監視がたえず身にそそがれているのに気づいた。
あの赤い瞳に灯した、ユルゲンへの燃え盛る愛情が、嫉妬の炎に代わる事を、何より懼れた。
ゼオライマーのパイロットが、ベルンハルト邸を訪問したあの日以来、彼女の嫉みを買うようになる事を避けた。
「まあ、どっちにしろ、まだブレーメ嬢は19にもならぬ娘御だ。何かあったら私がかばうよ」
そう言って、笑みを浮かべるハイム将軍に不安を覚えながら、マライは、
「わかりました」と自我を抑えた。
この場で参謀総長や軍上層部と争うのは愚かである。争って勝てっこない。
少なくとも自分は、この国家と軍隊に忠誠を捧げている。
ベアトリクスの様な小娘、アイリスディーナの様な世間知らずと、同列であってはならない。
今、命令された任務を無事貫徹させよう。
アイリスディーナの見合いや、ベアトリクス一人の内心などは問題でない。どうにでもなる。
そのどうでもいい事に、議長のごきげんを損じ、軍上層部と気まずくなる等は、愚(
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