第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師 その3
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団は2個師団しかなく、第一戦車軍団の様な1万人規模の部隊は無かった。
また即戦力と言えば、自動車化歩兵4個師団と参謀本部直轄の空挺特殊部隊(第40降下猟兵連隊)のみ。
とても4200両の戦車を有する駐東独ソ連軍には対抗できず、蹂躙されるのは目に見えていた。
時々ソ連軍は市外に繰り出すと、これ見よがしに最新鋭のT-72戦車を乗り回し、東独政権を牽制していた。
ソ連は、何か不穏な動きを東独政府が行おうとすれば、すぐ鎮圧できる態勢を構築していた。
高い工業力、技術力を有する東独を注視し、民主化運動の波及を恐れた。
それは現実のものとなった。
一例を挙げれば1953年6月16日のベルリン暴動であろう。
同年3月5日のスターリン『薨去』の報に接したベルリン市民は、立ち上がった。
不条理な賃金カットと言う、SEDの無為無策に激高し、市街地でデモ活動を開始。
SED政権幹部は、1896年の露館播遷の顰に倣うかの如く、駐留ソ連軍司令部に逃亡。
デモ活動はベルリン全市を覆う様に燃え広がり、政権打倒の可能性まで見え始めた。
事態を重く見た東独政府は、デモ隊と話し合いに応じる姿勢を見せる。
しかし、東独の姿勢を問題視したソ連軍は、事態の鎮静化の為に武力を用いた。
即座に2万人の軍勢とT−34戦車の部隊を送り込み、武力制圧。
東独政府関係者116名を含む500名前後が死亡し、2000人近い負傷者が出た。
少なくとも5000人以上が逮捕され、200人近くが裁判なしで処刑。
この事件は、独ソ両国間に深い傷跡を残した。
ユルゲンは、老爺の昔話を思い出すことによって、自分が必ずしも祖国の為ばかりではなく……、ベアトリクスの為に、時に剣を取って戦う事が許されても良い……かと思えた。
ユルゲンの脇に居るヘンペル中尉が、不敵の笑みを浮かべる。
「此方には、東欧諸国が付いている事をお忘れなく……」
長年の暴政により、東欧諸国からの怨府となっている祖国・ソ連。
立ち上がった男は、苦虫を?み潰したような顔をすると吐き捨てた。
「この忌々しい餓鬼どもが……」
ゲルツィン大佐は微動だにせず、上座に腰かけていた。
ソ連軍の事務官が尋ねた。
「ベルンハルト君。それでも全面対決も辞さずと……」
意を決して、男の顔を覗き見ると呟く。
「もとより覚悟で乗り込んできました……」
ゲルツィンが不意に立ち上がった。
「同志ベルンハルト!」
顔をユルゲンの方に向ける。
「何も国を挙げての戦争をする必要はない……ここで二人で決着をつけるのも方法の一つだ」
紙巻きたばこを取り出すと、火を点けた。
ユルゲンは不敵の笑みを湛えると、一言告げた。
「お望みならば……」
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