第三十一章 なにが、出来るのかな
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現金な考え、なのかも知れない。
だって、自分たちが仮想世界の住民であったこと、自分たちが単なるデータであったという事実を知ったことで、あれだけの悲壮感やなげやりな気持ちが生じ掛けていたというのに……
それなのに、仮想世界がまだ存在していると分かった途端に、守らねばという気持ちや、さらには自分たちが生きる上での希望のようなものまで、湧き上がってしまったのだから。
でも、冷静に考えて見れば、当然のことなのかも知れない。
こっちの世界も、わたしたちの暮らしていたあちら側も、同じだ。
みな、現実を生きているんだ。
「そう、ここに……地球は、あるんだ」
ぎゅ、
アサキは、自分の小さな拳を強く握り締めた。
この現実世界の宇宙に、遥か昔に存在していた地球。
それがなかったら、わたしたちはいない。
でも、それよりも、この、手の中の雲、仮想世界にある方こそが、我々の、地球なんだ。
真実を知ろうとも、その思いは変えちゃいけない。
でなきゃ、わたしたちの存在とは、なんなんだ。
この中に生きている人たち、生命の存在は、なんなんだ。
2
「この雲みたいなコンピュータの中にある、あたしたちにとっての宇宙や、地球を、こっち世界から好き勝手にいじくれるっつーなら、そりゃあ神だよな。全能どころじゃない」
話の大きさ故か、現実感と非現実感に挟まれた、ちょっと他人事っぽい笑みを、カズミは浮かべた。
「機械の作り出した、疑似現実ですからね。全人類すべてを、窒息させつつ生かすという、攻め苦を味合わせることだって出来る。五感のない、意識だけの状態で、永遠を生かすことだって出来る」
白い衣装を着たブロンド髪の少女が、おだやかな顔でさらり物騒なことをいう。
「怖いこというなよ! それ死んで無になった方がマシってレベルだぞ!」
「疑似因果の配列や複合関数を書き変えさえすれば、そういう設定も可能というだけです。実際には、なんでもかんでも好きに出来るわけではない。陽子配列に基づいた実際の生物が生きて行くことを前提に、仮想世界は作られていますから、無意味に残酷なことなど仕組まれてはいませんよ。単なる、もう一つの現実というだけです」
「その仮想世界の中で、本当だったら時間をジャンジャカ早送りさせて、ジャンジャカ未来に進めて、宇宙の生命を延ばすための科学技術を、生み出して貰おうとしていたってわけだ」
「そうですね。さらに、今回の世界には魔法があり、それによって選択肢が加わりました」
「魔法による奇跡で、宇宙を存続させること、だね」
アサキが、言葉を割り込ませた。
「はい。ただし、強大な魔法使いであればよいというわけではない。宇宙を操作するには、物理法則のみ
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