第三章
[8]前話
秀吉は時折秀長がいた場所を見る様になった、そして。
夜酒を飲んでもだ、正室のねね北政所と呼ばれる様になった彼女に言った。
「どうしてもな」
「寂しいんだね」
「何時でもな」
「政の場でもだね」
「今こうして飲んでもじゃ」
酒を飲みながら古女房に話した。
「寂しいわ」
「あたしがいてもかい」
「お主がおってもじゃ」
それでもとだ、秀吉はねねに返した。
「こうした時も小竹がおったではないか」
「そうだったね」
「いつも一緒にいてくれたのだぞ」
秀長、彼がというのだ。
「そうであったのがじゃ」
「いなくなったからね、小竹さん」
「子供の頃から一緒におってな」
「織田家ににお仕えしてもね」
「足軽だった時からな」
「一緒だったね」
「近江に入っても姫路におってもな」
「この大坂でもね」
「戦の時も一緒で上様に叱られた時にもな」
信長にというのだ。
「傍におってくれた、その小竹がおらんで」
「どうしてもだね」
「寂しくて仕方ない、弟なのに兄のわしより先に死ぬなぞ」
自分より若いのにというのだ。
「それで先に死ぬか、全く以て馬鹿な奴じゃ」
「そしてその馬鹿な人がだね」
「いなくなってな」
隣を見た、秀長がいた場所を。
「寂しい、わしはこのままずっとじゃ」
「寂しい思いをしていくっていうんだね」
「そう思うだけで嫌になるわ」
こう言ってまた飲んだ、その酒は美味くとも何ともなく彼はその酒をただひたすらに飲んでいった。
そして政でもだった。
「大納言様がおられれば」
「ここで太閤様をお止めされたのに」
「どうして先立たれたのか」
「無念で仕方ない」
一人になり無体を繰り返す秀吉を見て嘆いた、一人になった彼はただひたすら寂しく話す相手もおらずそうなっていた。そして誰もが秀長のことを思うばかりであった。もう空いているその座を見て。
大和大納言 完
2022・3・17
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