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大和大納言
第二章

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「わしの傍にいて欲しいのだ」
「ですか、ではそれがしもです」
「そうしてくれるか」
「兄上のご期待に添える様にします」
 兄に畏まって応えた、だが。
 秀長は次第に体調を崩していった、やがて床から起き上がれなくなった。それで時があると見舞いに来る兄に言った。
「兄上、申し訳ありませぬが」
「馬鹿を言え、そなたの病は必ず治る」
 秀吉は弟の枕元で自分に言い聞かせる様に告げた。
「治ったら花見じゃ、山海の珍味を揃えてな」
「そうしてですか」
「桜を見るぞ、桜でなくてもな」 
 この花の季節でなくともというのだ。
「梅でも桃でも皐月でもな」
「花見としますか」
「その季の花を共に見て楽しもうぞ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「また二人で、ですか」
「左様、わしに弟は一人しかおらぬのだぞ」
「それがしだけですね」
「そのそなたがわしより先に行くことは許さぬ」
 決してと言うのだった。
「だからな」
「それがしはですか」
「病を治せ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「何とかそうします」 
 こう言ってそのうえでだった。
 秀長は何とか生きようとした、だがそれは適わず。
 秀長は世を去った、秀吉は彼の最期を看取ったが泣きながら言った。
「小竹、わしを置いて行くのか」
「あの、関白様」
「あまり泣かれてはお身体に触ります」
「ですから」
「わかっておる、しかし今は泣かせてくれ」 
 周りの者達に秀長の死に顔、目を閉じて何も語らないその顔を見て話した。
「泣きたいだけな」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「大納言様とですか」
「最後の最期まで共にいさせてくれ」
 こう言ってだった。
 秀吉は秀長の葬儀の間最後まで彼の傍にいた、そして。
 彼は争議が終わるとだった、関白の仕事に戻ったが。
 常に傍を見てだ、こう言った。
「おらぬな」
「大納言様は」
「最早」
「わかっておる」
 秀吉は傍にいる者達に寂しい顔で応えた。
「そのことはな、しかしな」
「それでもですか」
「大納言様のことは」
「寂しいとな」 
 その様にというのだ。
「思ってしまう、これまで小竹が傍にいてくれて」
「それで、ですか」
「これまではですか」
「何かと話が出来て寂しくもなかったが」
 それでもというのだ。
「こうしておらぬ様になるとな」
「寂しくて」
「そうしてですか」
「つい傍を見てしまうのじゃ」
「そうなのですか」
「どうしても」
「おらぬとわかっていてもな」
 こう言ってだった。
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