第一章
[2]次話
大和大納言
羽柴秀吉は織田信長が本能寺で横死してから数多くの戦に勝っていっていた、そうして次の天下人の地位を確かにしていっていた。
その横には小柄な彼よりも背が高く細面で若く落ち着いた顔立ちの者がいた。
羽柴秀長、誰もが彼を見て言った。
「関白様もお見事だが」
「大納言様がおられると尚更だな」
「全くだ、あの方がおられるからこそだ」
秀長、彼がというのだ。
「関白様はいつもお話が出来てな」
「大納言様からお言葉を受けてな」
「そしてお考えを確かにされる」
「大納言様からの諫言もある」
「常にお話が出来る方がおられる」
「このことは有り難いな」
「大納言様は地味な方だが」
前に出る様なことはしないので誰もがこう言った。
「しかしだ」
「あの方がおられずして関白様はどうなるか」
「わからない程だ」
「是非これからもおられて欲しいな」
「そうだな」
こう言っていた、だが。
秀長は常に前に出なかった、秀吉の横にいて彼と話をして兄が何かすれば止める様にしていた。そうしていてだった。
兄を助け補佐することに徹していた、秀吉はその彼に言うのだった。
「小竹、これからもだ」
「兄上のお傍にですか」
「いてくれるか」
こう言うのだった。
「わしがこの世におる限りな」
「そうして宜しいでしょうか」
「何を言う、たった一人の弟でだ」
秀吉は弟に切実な顔で述べた。
「いつもわしを助けてくれておるではないか」
「常にですか」
「左様、わしがほんの足軽だった頃からな」
今となれば懐かしい頃であった、秀吉はその懐かしさにも浸って話した。
「お主が傍にいてくれてどれだけ助かったか」
「それがしは何も」
「そう言うがな、お主は」
それでもと言うのだった。
「わしを助けてくれて話し相手にもだ」
「なっているからですか」
「わしはそなたがいてこそな」
まさにというのだ。
「助かっておるし寂しくもない」
「だからですか」
「ずっとな」
これからもというのだ。
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