第二章
[8]前話
「私の子供を攫うなぞ」
「貴女に言いたいことがあったからです」
「私にですか」
「貴女には五百人の子がいますね」
「はい」
ハーリティーはその通りだと答えました。
「左様ですが」
「そしてどの子にも愛情を注がれていますね」
「そうしています」
「その子供が一人いなくなっただけでこうなのです」
お釈迦様は静かな声のまま語りました。
「ではたった一人失っただけではどうでしょうか」
「一人ならば」
「貴女はいつも街の人達から子供を攫っていますね」
「そして我が子の食事にしています」
ハーリティーはその通りだと答えました。
「そうしています」
「たった一人の子供を攫われて殺されたらどれだけ悲しいか」
「五百人の中から一人なのに」
「それがたった一人ならです」
それならというのです。
「一体」
「そう言われますと」
「その悲しみはどれだけか。わかりましたね」
「深く」
「これからはです」
お釈迦様は自分の言ったことに深く反省したハーリティーにさらに言いました。
「人の子を攫って殺さないことです」
「わかりました、もう二度としません」
ハーリティーは心から約束しました。94
「誓います」
「ならピンカラを返します、ただ」
お釈迦様はさらに言いました。
「人の肉が食べたくなる時もあるでしょう」
「子供達もですか」
「その時はこれを食べるのです」
こう言ってハーリティーに差し出したものは。
柘榴でした、その実を出して言うのでした。
「よいですね」
「柘榴ですか」
「柘榴は人の肉の味がします」
だからだというのだ。
「人の肉を。貴女も子供達も食べたくなれば」
「その時はですね」
「柘榴を食べてです」
その様にしてというのです。
「我慢するのです、いいですね」
「わかりました」
ハーリティーはまた約束しました。
「そうします」
「それでは返しましょう」
こうしてでした。
お釈迦様はハーリティーにピンカラを返しました、するとです。
ハーリティーは我が子を出して泣いて喜びました、それからはです。
ハーリティーはお釈迦様に誓った通り決して子供を攫って殺して自分の子供達の食事にすることはありませんでした、それどころかです。
これを機に夫パンチカそして五百人の子供達と共にお釈迦様の弟子になり修行を積みました。そうして子供を襲う鬼神から子供を護る仏様になったのです。どうしても人間を食べたい時は柘榴を食べる様にしてそうなりました。
インドに伝わる古いお話です。怖い鬼も心を入れ替えると優しい仏様になるのです。このお話はこれで終わりです。
子供と柘榴 完
2022・2・13
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