第二部 1978年
狙われた天才科学者
一笑千金 その3
[1/5]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
翌朝、議長公邸は驚きと混乱の声が響き渡っていた。
「えっ。アイリスディーナの結婚のはなしですって?」
初耳とみえて、ユルゲンは桃のような血色を見せながら目を丸くした。
「で、何方に……」
「ゼオライマーのパイロット、木原マサキにだよ。ハイムの提案でな」
案の定、ユルゲンはおもしろくない顔をした。
議長はたたみかけて、若い義子を諭した。
「外交とは、すべて逆境に在っても耐え忍んで成し遂げるものだ。時にはじっとこらえて我慢するのも必要と言えよう。
木原にアイリスディーナを与える。勿論、嫌でたまらないだろうが、その効果は大きい。
どのような英傑や賢人でも人間だ。
遂に人間的な弱点、つまり凡情を抱くのは世の常。
思うに、傾城の美女、一人で、剣で血を濡らさずして国土の難を救える」
話を受けてしばらく、ユルゲンは熟慮にふけり、やがて議長には、最初の気色とは打って変って、
「取り敢えず、舅や妻に相談し、自分の方で妹は口説いて見せるつもりです」
と答えて、その場を辞した。
帰宅するなり、ユルゲンは、妻を呼び出して、事の経緯を相談した。
するとベアトリクスは、怪訝な顔をして、
「アイリスディーナを娶いに来るって……何処までもあつかましい男ね」
ユルゲンは、あわてて手を振りながら、
「違う、違う。ハイム少将の提案で、我等のほうから木原を婚姻に誘い出すんだよ」
「嘘、嘘。貴方は私を揶揄って笑おうとしてるのでしょ」
「本当。嘘と思うならば、人を出して聞いて来いよ」
ベアトリクスは、まだ信じない顔で、護衛の一名であるデュルクに、事の経緯を確かめる様をいいつけた。
デュルクは、官衙から帰ると、すぐベアトリクスの前へ来て語った。
「例のお噂で、政治局や重臣の皆様はもちきりでした」
ベアトリクスは、声を上げて、哭き出した。
たちまち彼女は、わが義妹のアイリスディーナのいる部屋へと、走って行った。
その様に仰天したアイリスディーナは、
「ベアトリクス、どうかしたの」と訝しんだ。
ベアトリクスは、袖でおおった顔を上げて、
「アイリス。どんな立場になっても、私は貴方の嫂、義姉よ」
「何を言うの、今さら」
「じゃあ、なんで私に相談も無く、大事な女の一生を簡単に決めたのよ」
「わけが分からない。なんのこと、一体?」
「それその通り。木原へ嫁がすことなど許すつもりはないわ」
アイリスディーナは、眼をみはって、
「えっ、誰がそんなことを……」と、二の句もつげない顔をした。
「兄に訊いてご覧なさい」と、涙で濡れた目でユルゲンをねめつけた。
ベアトリクスのうしろへ来て立っていたユルゲ
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ