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TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
TALES OF ULTRAMAN  鬼神の立つ湖
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「化け物め」と吐き捨てるのも聞こえていた。いつも穏やかな物腰の沢の爺がそのような物言いをするのを大悟は初めて聞いた。
 一同の前を今、松明を持った農民たちが虚ろな顔をして立ちはだかっていた。皆当然大悟たちの知らない顔だったので、沢の爺が話していた湖岸の村の者たちであることは想像出来た。しかし、大悟たちはその村人たちの顔つきに見覚えがあった。加魅羅の巫女によって惑わされたものたちの顔つきだ。彼らも彼女の妖術にかかっているに違いない。というのも、群れの先頭を切るその者が加魅羅の巫女本人だったからだ。
「ようやく会えたというのに随分とつれない顔じゃないか、大悟」
 加魅羅の巫女は猫撫で声で大悟に語り掛けながら小さく笑った。戦慄を隠せない大悟の表情が、まるで愛おしくてしょうがないとでもいうような表情を浮かべている。
「村からは山二つ離れている。一日以上切り離しているはずなのにどうしてお前がそこにいる。いや」
 むしろ何故先回りして待ち構えていられたのか、という問いを正一郎は最後まで口に出すことが出来なかった。体の底から湧き上がる動揺と恐怖が、村でも指折りの勇敢な男をも支配しようとしていたのだ。
「私をあなどってもらっては困るな」
 加魅羅の巫女は面白そうに言った。それから、
「さあ、どうする。大悟。この者たちは私の意のまま。お前たちを皆殺しにするよう私は命じる。もしもお前の妹や仲間を救いたければお前の持つ力を使ってこの者たちを蹴散らすのじゃ」
 加魅羅がそそのかす声は妙な響きで大悟の頭のなかへと入り込んできた。耳の穴から蛇がするりと入り込んできたような心地がする。このままでは考えることも体を動かすことも自由が効かなくなる。もしかすると、大悟自身でもこの状況を打開するためには力を使うほかないのではないかと考えていたのかもしれない。けれどもそれが自分自身での判断なのか、それとも加魅羅の怪しげな声の響きに支配されてなのかも今では
わからなかった。懐では神器が早鐘をうつ心臓のように脈打っている。
 その時、大悟と加魅羅の間を断ち切るように光命が前に出た。
「お前は何者だ」
 およそ加魅羅の巫女が発したとは思えぬ低く禍々しい声がしたのだが、それは確かに彼女の声だった。彼女は光命を見ると、威嚇しようと頭をもたげる蛇のような具合に顔をうつむかせ上目遣いに彼を睨んだ。
 光命の方では加魅羅の巫女の威嚇を意にも介さない様子で、すっと目を閉じるとそのまま手を合わせて何事かわからぬ言葉を念仏のように唱え始めた。平坦な調子でつぶやくような声ではあるものの、その言葉のもつ凛とした響きが耳に届くと大悟をからめとろうとしていた巫女の呪縛を取り除いた。そして、それは大悟だけではなく、加魅羅の巫女が率いていた村の者たちをも解き放ったようだった。
「おい、俺たちどうしてこ
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