TALES OF ULTRAMAN 鬼神の立つ湖
[34/42]
[1]次 [9]前 最後 最初
もしれん。儚いものだ」
光命は少しの間言葉を切った。そしてまた続けた。
「しかし大悟、一つ答えられるとすれば、鬼神としてではなく、自分として、人として何が出来るのかだ。そのことを君が自分自身に問い続けることをやめなければ、君はきっと道を見失わずに済む」
人として出来ること、と大悟が繰り返しているうちに、光命は今度は他の皆の方を向いてこう告げた。
「さて、もう行きましょう。日が暮れる頃には何とか湖まではついていたいものだ。あまり油断していると追手との距離も縮められてしまう」
日が傾く頃、一同は湖までたどり着いた。山を降りる途中、湖が見えた。山の端が滲むような夕焼けに縁取られる様と、その頭上に広がる群青の空が湖面に映し出され、息を飲む美しさだった。けれどもいざ湖の近くまでたどり着くと、夕焼けはしぼむように色褪せ、先ほどまでなかったはずの雲が立ち込めていた。日が落ちるに早さにしては不可思議なほどの速さだ。何かがおかしいと一同がそれぞれに辺りを伺いながら歩いていると、やがて息がつまるような鈍い闇が空を覆い始めた。
年長者たちはもちろん、大悟たち若い三人もにわかに訪れたその変化に気が付いてはいたものの、妙な緊迫感を押し戻そうとするかのように、務めてそれを口に出さないようにしていた。一同は押し黙ったまま先を進み、しばらく口を開く者はいなかった。と、前方に目を向けた堀兵衛が声を上げた。
「おい、あれ」
堀兵衛が指さす先、薄暗がりに包まれた湖岸を向こうからかすかな灯かりがいくつもの群れになってこちらへと近付いてくる。視界が悪いなかでみるその灯かりは、まるで物の怪の類のように見えて薄気味悪かった。
大悟のすぐ近くで、堀兵衛も利明も唾を飲みこむ音が聞こえた。美座伶が大悟の手を強く握る。沢の爺は立ち止まって前方を鷹のような目で見据え、その隣で正一郎は腰元の太刀に手をかけた。光命はといえば、後ろの方で身じろぎもせずに前方を観察している。いや、ひょっとすると耳を澄ませているのかもしれなかった。
よく集中して聴くと、前方からいくつもの足音が聞こえてきた。堀兵衛や利明もそれに気が付いたらしく、ほっと肩を撫でおろした。
「なんや、妖怪の類ではないようやな」
しかし、堀兵衛の言葉に笑みをこぼしたのも束の間、この中で一番目が効く利明が前方から向かってくる人々に目を凝らすと、彼は肝に一発くらったような声を漏らした。大悟や堀兵衛が彼の顔を覗き込むと、恐怖で目を大きく見開いている。続いて、暗がりに目が慣れてきた正一郎が利明が目にしたものと同じものに気が付いて思わず呟いた。
「そんな馬鹿な」
灯かりが近くなって松明を持つ者たちの顔がわかるくらいに近付くと、大悟は息を呑んだ。隣で堀兵衛の「嘘やろ」と腰の抜けたような声も聞こえていた上、沢の爺が憎々し気に
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ