TALES OF ULTRAMAN 鬼神の立つ湖
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た。
「私もこの辺りのことは知っている」
と沢の爺。
「このまま山を降りると湖があるはず。回り込んでさらに向こうへいけばそこにも村がある。古くからの知り合いがいる村でな。しばらくはそこへ身を寄せようぞ」
「しかし、そうたやすくよそ者を受け入れるでしょうか」
正一郎が懸念をしめした。
「それも訳もきかずに。かといって大蛇の話や鬼神の話などをしたところで到底信じますまい」
「無論。こちらとて誰が馬鹿正直にすべて話すものか」
沢の爺はそう言ってからりと笑った。
「村を出た理由はうまく言いつくろって身を寄せるだけでもいい。ひとまずは体勢を立て直すのだ」
年若き大悟、美座伶、堀兵衛、利明は沢の爺と正一郎の話し合いを見守るばかりだった。この場合、年長者の判断に任せるのがいいことは確かだった。光命はといえば、大悟たちと同じように口を挟まずに二人の会議を聞いていたかと思うと、辺りの花やら鳥やら、近くを舞う蝶やらに眼をうつしては一つ一つ見入っている。その様子を大悟が不思議そうに見ていると、大悟の視線に気づいた光命が静かに言った。
「何、私にとっては一つ一つが初めてなものでな」
結局、一同は沢の爺の提案した通り、湖の向こうの近くにあるという村へ向かうということで落ち着いた。
道は順調とは言い難かった。山道は普段大悟たちが遊びまわっていたような野山とは違い幾分か険しく、おまけに一同の疲労も癒えてはいなかった。利明が横で鞭うつような勢いで歩かせていたものの、とうとう堀兵衛はへたりこんでしまい、その様子を見た光命が一休みしよう、と一同に声をかけた。彼らはそのまま川岸の近くでしばし休息をとることとなった。
泡立つように弾ける川の水面をぼんやりと大悟が眺めていると、いつの間にか光命が隣に腰を下していた。
「何か思い悩んでいるようだ」
光命がまたいつもの抑揚のない調子そう言うと、大悟はしばらくためらいつつも、心の内にとどめていたものを吐露することにした。
「光命様、私はどのようにすればよいのでしょう。加魅羅の巫女が言っていることが本当であれば私は黒い鬼神にもなってしまうかもしれない。ですが、このまま何もしないでいることはできません。今、鬼神となった私に何が出来るのでしょうか、いや、何をすべきなのでしょうか」
光命は川の水面を眺めてしばらく黙り込んでいた。その視線は流れに沿ってどこまでも遠くを漂うかのよう見えた。と思うと、不意に己を引き戻すようにしてはっきりとした声で告げた。
「わからぬ」
それから大悟の方を向いて彼は言う。
「私の同族にもかつて道を踏み外してしまったものがいた。我々は何万年も前から強靭な肉体を手にし、強固な精神を内に秘めていたはずだったのに。しかし、魂とはどのように外側の肉体が強さを極めてもそういったものなのか
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