TALES OF ULTRAMAN 鬼神の立つ湖
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も、大悟はそれ以上のことは話さなかった。とにかく辺りは薄暗くて不穏だった。これ以上不吉なことを口にして気を弱らせたら、どんな魔物が寄り付いてくるかわかったものではない。
きっとあの場所だろう。大悟には心当たりがあった。今大悟たちがいる場所からもう少し茂みを進んでいくと、藪の開けた原っぱのような場所があるはずだった。木々の傘もぽっかりと開けて天を仰ぐことが出来、遠目には村を囲む山々のなかで一番大きな山がそびえて見える。前に森に迷い込んだ時も、美座伶はそこにいた。
どうにか藪をかき分けていくと、大悟は探していた場所にたどり着いた。ここまで来るのに随分と歩き、村からも離れてしまった。後には堀兵衛が時折物音にびくつきながら大悟にしがみつくようについてくる。
「なあ、大悟。さっきから変な音が聞こえへんか?」
音?と大悟が訊き返すと、堀兵衛がうなずいた。
「ごうごうっていう、何かずれるような音や」
堀兵衛の言った通り、低くうなるようなごうごうという音が足元を伝うようなさりげなさで聞こえてきた。何日か前に大雨が振っていたので、そのせいで近くに川の水かさが増しているのかもしれない。もしくは土が脆くなってどこかが崩れかかっている、ということもある。そんなことを考えながらも大悟はいたずら心でわざと堀兵衛を脅かした。
「魔物が僕らを呼んでいるのかもしれないよ」
おい、よせよ、と堀兵衛が情けない声をあげるのを聞いて大悟は張りつめていた肩の力が少し抜けた。堀兵衛は大悟と同じ年で十六にもなるというのに、子供のような怖がりようだ。大悟は時折笑い出しそうになりながら、自分自身も森の闇のなかの深みからはなるべく目を逸らしていた。
森の茂みがぽっかりと開けたその場所は、月の光を受けてうっすらと輝いて見えた。そしてその真ん中で座り込んで月と山をぼうっと眺める小さな人影を見た時、堀兵衛は思わず大声で呼び掛けようとした。しかし、大悟は静かに首を振ってそれを制止して、その人影にそっと近寄り優しい調子で声をかけた。
「美座伶、駄目じゃないか。一人でこんなところまで来ちゃあ」
心配したぞ、と笑いかけるとその人影はゆっくりと振り向いた。大悟の妹、美座伶はしばらくぼうっとしたまま何も答えず、その内に切れ切れの言葉で返事をした。
「探し物、してた」
九つにもなるというのに、美座伶は他の同い年の子と比べてやたらに幼く見えた。話をする時も言葉が少なく、話し方も何やらおぼつかなく聞こえる。もしかすると、頭になにか障りがあるんじゃないか、という大人たちもいた。しかし、決して美座伶は頭の悪い子ではない、と大悟は常日頃から考えていた。特に大悟や他のものにはわからない何かを誰よりも早く感じ取る事に関しては、美座伶は巫女にも通じるような力を持っているのではないか、と大悟は密かに考え
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