TALES OF ULTRAMAN 鬼神の立つ湖
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山には鬼神様がおってな。それはもう大きい大きい体をしたお方で、どんなお侍さんも獣も敵わん。怖ろしく力持ちじゃから、その気になれば山をも動かしてしまうお方じゃ。じゃが安心せい、あの方はお優しいお方でな。災いある時にはどこからかやってきて、か弱きわしらを守ってくれる。いつも我らを見守れるようにあの山々のどこかに潜んで眠りについておられるのじゃ。
しかしな、あの山におるのは優しい鬼神様だけじゃのうて。おそろしい祟りや魔のものが森に潜んでいつも我らを狙っておる。特にお前さんのような小さな小さな幼子は魔物
の大好物じゃ。だから、決して夜に森のなかへ近付こうとするでないぞ。瞬く間に魔の物に取りつかれて魂を食われてしまうからのう。
幼い頃、村の爺が話してくれたことを思い浮かべながら、今まさに大悟はその森のなかをかき分けて夜の闇のなかを進んでいるところだった。月の光が弱い上に夜明け前の一番暗い森の中、何かを探すにはどうにも向かない夜だ。しかし、見つけるまで戻る訳にはいかない。
大悟は辺りを伺いながら余計な物音を立てないように慎重に森を進んでいった。真夜中の森で迷い人に害をなすのは獣や魔物だけとは限らない。人もそうだ。つい最近ではこの辺りにも野伏が増えたと聞く。なんでもいつぞやから将軍家の力が弱まっているとかで、村の外の様相は次第に荒れ始めているという。役人が仕事をしないせいで、町では盗賊が昼日中を大股で歩くようになった、なんて話も聞く。
大悟たちの住んでいる村は山々に囲まれているせいか、もしくはこれまた不思議な気運に守られているせいなのか、今まだ穏やかな日々の中にある。それでもやがては世間の変動の波に押されて、いくらか生活が厳しくなっていく時が来るのかもしれない。大悟はうっすらとそんなことを考えるようになっていた。
「大悟、置いていくないうとるやろ」
不意にすぐ近くで草のがさがさという音がして大悟はすぐさま振り向いた。中から姿を現したのは同じく村に住む幼馴染の堀兵衛だった。
「ごめんよ。でもどうしても美座伶の姿が見つからなくて」
「それにしてもどこ行ったんや、美座伶の奴」
堀兵衛はこぼしながら辺りを見回した。
堀兵衛が夜中に厠へ行くのに起きてみると、裏手に大悟の姿が見えたのだった。ただならぬ様子だったのですぐさま追いかけて声をかけると、やはり大悟の妹の美座伶が急にいなくなったのだという。森のなかへいるかもしれないと聞いて、堀兵衛は渋い顔を見せながらも大悟についてきてくれたのだ。
「早いとこ見つけないと」
「なあ、本当にこんな森ん中入っていったんか?あいつ、ものすごい怖がりなのにこんな真っ暗な中一人でこげな森一人入るか?」
「実は前にもこういうことはあったんだ」
前にも?と堀兵衛が訊き返す
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