第78話 作戦と事業
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ル嬢が出勤して、いつものように珈琲を出して掃除しているのに、俺は呆然としていた。
「貯金もありませんし、特に母と二人、何処へ行く当てもないので休暇は取り消しました」
それに作戦行動前に司令部従卒が一人もいなくなったら業務に支障が出るでしょうと、もはや自分の砦を守るような態度で、彼女は言った。そして長期休暇をとって主が不在となった副官用デスクを占領し受験勉強に励んでいる。モンシャルマン参謀長もモンティージャ中佐も程度の差こそあれ、まぁ本人が望んでいるならこちらも助かると、それを黙認している。
だが今回は俺としては彼女の受験勉強を見ることも、彼女を使って作戦行動を立案することもできる時間がない。少なくともここと、第八艦隊司令部と、地域社会開発委員会を巡り回ることになる。軍事作戦に関してはモンシャルマン参謀長もモンティージャ中佐もいることなので、まずは帰還事業について詰めることにした。
帰還事業とひとこと言っても、内容は多岐に渡る。
エル=ファシルから避難した約三〇〇万人の避難民から帰還民への帰属変更。いわゆる国家が全ての面倒を見る状況から、各人各家庭そして各企業の預貯金口座を開放して、経済活動を再開させる段階への移行を法的に進めること。これは既に中央政府がハイネセンに避難民が到着した時点から計画が進んでいる。
次にエル=ファシルへの帰還を希望する住民の旅客運航事業。船舶を調達し、それを運航すること。これは特別法人の管轄となる。特別法人と名はついているが、実際は元エル=ファシル地域政府の中核者で構成されたいわゆる『亡命政府』だ。エル=ファシルに戻ることなく別の星への移住を求める住民もいることから、彼らの数的管理や個々の移住先での助成事業も行わなければならない。そしてそれは時々刻々と変わる。
最後に復興事業。破壊されたエル=ファシルの地域経済を立て直さなければならない。大規模な地上戦が都市部では行われなかったので、派遣地上軍及び捕虜達によって戦場整理は終了し、インフラも最低限以上の復旧を果たしている。ただし農地や工場といった民間事業所の復興は当然進んでいない。産業助成や大規模公共事業と、世帯経済の復興の両面から財務・経済・開発官僚主体で計画が進められている。
これらの事業を統合して帰還事業としているが、亡命政府である特別法人、中央政府各省庁から集められた官僚達、いわゆる住民グループと呼ばれる避難民の連合互助組織、そしてそれら三者の『上』に立っているとは名ばかりの地域社会開発委員会が、互いの面子と法的立場を背景に糸を引き合いながら物事を進めている。ここに軍として加わることは、俺としては断じて拒否したい。
軍はエル=ファシルでヘマを打った。防衛司令官は敗れた上に、守るべき住民を見捨てて逃げ出した。かろ
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