第78話 作戦と事業
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宇宙歴七八九年一一月 バーラト星系惑星ハイネセン
二日間それなりに考え込んでいたが、結局気の利いた文章など俺に書けるはずもなく、
『アガパンサスの鉢は、もう少し大きい方がいいかもしれない。それと水やりの回数は慎重に』
と何の捻りもない文章を量販の便箋に書き込み、フェザーンの頃から着ているシャツの一番上のボタンと一緒に封筒に放り込んで、第四宇宙港にいる小生意気な幼妻に手渡した。
「……軍服姿だと、どんな人もなんとなく軍人に見えるから不思議ね」
ヤンと面識があることは原作でもわかっていたし、七三〇年マフィアの親族だから高級軍人に対する免疫も十分すぎるほどにあるだろう。確かに私服を着ている時は、若干体つきの良いモテない三流大学の陰キャにしか見えないだろうが。
「……ちなみにその手紙は何処で彼女に手渡すことになっている?」
自走型の持参コップ式自販機からホットコーヒーを二つ買い、一つを彼女の前に置いて俺は彼女に問うた。大手運送会社の傘下ということではなく、独自に会社を作り持ち船一本で商売をしているのが独立商船企業だ。すでに大きな賞を獲得し、フェザーンでそれなりに名声を獲得しつつあるドミニクと、中小というか零細に近い独立商船の船務長補佐が、遠くの『元カレ』宛にとはいえ『ヤバい手紙』の配送を請け負えるほどの仲になれるという確率はそれほど大きくないはずだ。そしていくら金を積まれても独立商人が、口で言うほどフェザーン当局を敵に回すことなどできはしない。
ドミニクが、この世界におけるドミニクが、ルビンスキーの愛人になるとしても可笑しい話ではない。事実、俺は奴に負けてマーロヴィアに飛ばされた。あの黒狐がドミニクに触手を伸ばしたところで、俺は防げるわけでもないし、ドミニクも計算してそれに乗ることもあるだろう。そういう趣味とは無縁なので、腰の上にまで乗っていると考えると奥歯をすり減らす気分になるが、それもまた自業自得。
この手紙の『所属』。全てはドミニクと彼女がどこで知り合ったかだ。懐かしい叔父さんの店でというなら、かなりグレーに近い。間違いなく奴の目と手が届いている。俺のメールホルダーに飛び込みでボルテックがブラックバートの話を放り込んでくるくらいの諜報能力だ。手紙の性質から考えても見逃すはずはない。叔父さんの店でさらに人を介してとなれば、もう真っ黒だろう。だが俺の質問に対して、この幼妻は一度目を丸くした後で、皮肉っぽい視線を俺に向けた。
「やっぱり聞いてきたわね。あの人も手紙の受け渡しの時には絶対聞いてくるって、言っていたわ」
「あぁ……そう……」
表情に出したつもりはないが、俺は紙コップに口を付けて、舌打ちを誤魔化した。その仕草に今度は笑みを浮かべる。
「コップを持つ時に小指だけが浮く。
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