第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師 その2
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曹は青年将校の事を軍靴で蹴りつけようとした瞬間、誰かに肩を掴まれる。
「離せ」
彼を掴んだのは、ユルゲンだった。
「同志軍曹。同志ヘンぺルの事は許してやってください。彼の失態は俺が取りましょう」
ユルゲンは、赤軍兵の過剰なまでの鉄拳制裁に見かねて止めに入った。
予てよりソ連軍の新兵虐め(ジェドフシーナ。Дедовщина)は知っていたし、赤軍内部での法の埒外での私的制裁は今に始まった事ではない。
一発殴って、罵倒する位なら東独軍でも仏軍外人部隊でも良くある話だ。
だが、既に倒れて抵抗の意思のない人間を足蹴にしようとしたことに耐えかねたのだった。
ブリヤート人軍曹の周囲を、ドイツ留学生組がぐるりと囲む。
何時もの『4人組』の他に、ユルゲンたちと一緒に留学した陸軍航空隊の青年将校の姿もあった。
「な、舐めるんじゃねえぞ!東欧のガキどもが」
男はユルゲンの手を振りほどくと、右手で腰に差したNR-40と呼ばれる短剣の柄を掴む。
鯉口を切ると、白刃をチラつかせながら東独からの留学生を恫喝した。
ユルゲンは、腰のベルトから素早く短剣を抜き出す。
右手にはソ連製の6kh3銃剣を模倣した、黒い柄の東独軍銃剣が握りしめられていた。
「どうか、刀をお納めください。出来ぬというのであらば、差し違える覚悟です」
彼は、ブリヤート人軍曹が同輩に兇刃を振るおうとしたので已む無く抜き合わせた。
遠くで事態の推移を見ていたゲルツィンは、拳銃嚢に右手を伸ばす。
マカロフ拳銃を取り出し、弾倉を即座に装填すると空中に向かって威嚇射撃をした。
数発の弾が発射され、雷鳴の様な音が演習場に響き渡る。
「静かにしろ」
立ち尽くすドイツ留学生たちを無視して、赤軍の教官の方に向かう。
その場にへたり込み、短剣を地面に落としたブリヤート人軍曹の目の前にまで来る。
拳銃を、男の面前に突きつけると指示を出した。
「お前らは舐められて当然だ。ろくに指導も出来ぬのだからな」
開いた左手で左肩を叩き、こう言い放った。
「ま、精々今のうちに頭を冷やしておくんだな」
ゲルツィンは、拳銃を仕舞って振り返る。
立ち去ろうとしていたドイツ留学生組の中から、ユルゲンの事を呼び止めた。
「同志ベルンハルト、二人だけで話がしたい」
赤く日焼けしているも青白く美しい肌。サファイヤを思わせる瞳でじっと彼の事を睨んでいた。
演習場の端に移動したゲルツィンは、目の前の好男子に問うた。
「先程の言葉……、留学生部隊長としての言かね」
そう言ってユルゲンは両手を差し出した。
「落とし前を付けましょう」
重営倉に放り込まれる覚悟であることを、ゲルツィンに示したのだ。
男は、手を差し出して来るユルゲ
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