第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師
[5/5]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
だ。
もっとも彼を叩き起した自分もそれ以上に愚かではあるが……
ヤウクは煙草に使い捨てライターで火を点けると、後部座席の窓を手動ハンドルで開けた。
紫煙を燻らせながら、助手席で正面を向いて座るゾーネ少尉に問うた。
「君達が動いたと言う事は誰の指示だい。政治局絡みだろ……」
ゾーネは後ろに振り返ると、彼の顔をちらと見て、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「親父っさんと言えばわかるだろう……」
それまで黙っていたユルゲンが、口を開く。
「あの人がやりたい事は、荒唐無稽だが理解できる」
刺すような目つきで、窓より振り返るとゾーネの事を見つめた。
「あの人の夢は……俺の夢でもあるのさ。一緒に命賭けて戦う仲間だよ」
そう告げると、再び車窓に視線を移した。
思わぬユルゲンの一言。
ゾーネ少尉は目を見開いて、彼の方を見る。
「議長と君との関係は、噂通りだったのか……」
ユルゲンは、右の助手席から身を乗り出しているゾーネに顔を向ける。
不敵の笑みを浮かべながら、漏らした。
「どんな綺麗事でも力がなくては駄目だ……。
俺はこの4年間戦術機を駆ってBETA共と戦う合間、政治の世界に翻弄されてきた」
彼は鋭い眼光で、ゾーネの眼を射抜く様に見つめた。
「政治は力や数の論理で動く。
この祖国や愛する家族を前にして詰まらぬ良心は要らない……。
俺一人ですべて抱え込むのも限界がある。そう考えてあの人と杯を交わしたのさ」
再び静寂を取り戻した車内。
ユルゲンは嘗ての恩師からの電文を握りしめながら、一人家に置いて来た妻を想う。
漫然と車窓より、新月で薄暗い市中を眺めていた。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ