第二部 1978年
ソ連の長い手
恩師
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新手の軟派か」
彼は、先程のゾーネの戯れに拒否感を示した。
ゾーネは気にすることなく、淡々と返した。
「気が立っている所を済まないが……同志ベルンハルト。
エフゲニー・ゲルツィンという男を知っているかね」
そっと懐中より電報の写しを取り出すと、ユルゲンに手渡す。
それを一瞥した彼は、ふと告げた。
「ゲルツィン教官が生きて居られたとは……」
ユルゲンは電報を握りしめながら、過去の記憶に深く沈潜した。
忘れもしない……、4年前のソ連留学。
モスクワ近郊のクビンカ基地で受けた、半年間の地獄のような特訓。
ゲルツィン教官は、空軍パイロット出身で数少ないカシュガル帰りの衛士。
ソ連改修型のF-4Rで光線級に肉薄。ナイフを振るい、単機生還という噂も聞いた。
超音速のジェット戦闘機乗りから転身して生き残っただけでも驚異的なのに……
並のドイツ人以上にロシア人に詳しいヤウクは、嘗ての教官に不信感を抱いた。
ヴォルガ・ドイツ人の祖父母や両親からロシアの習慣を聞いていた故に、ふと疑問に思う。
ロシア人の姓でゲルツィンという姓は庶子であったアレクサンドル・イワノヴッチ・ゲルツェンの為に、父イワン・アレクセイヴッチ・ヤコブレフが特別に作った姓。
しかも子息や孫は欧州に移住し、其処で最期を迎えたはず。
モスクワで1947年に亡くなった孫・ピア・ヘルツェンの子孫が居るという話も、寡聞にして知らない。
テロ組織『人民の意志』の系統をひくロシアの党組織は秘密主義。
議会を通じて、社会主義を広めようとしたドイツやフランスのと違い、暗殺や強盗もいとわなかった。
暗殺者を兄に持つレーニンや銀行強盗で数度の脱獄を繰り返したスターリン……。
彼等が偽名なのは、つとに有名……
今もソ連共産党の幹部の少なからぬ人間は偽名で活動している。
アルメニア人やカザフ人、ユダヤ人なのにロシア風の姓を名乗り、公職に就く。
教官が出自を隠ぺいするために、人民主義の元祖、ゲルツィンの名を偽名で名乗る。
十分、あり得る話だ……
矢張り件の男は、KGBかGRUの工作員だったのではないか。
スターリン時代、モスクワで国際共産党大会が開かれた時、各国からの招待者をNKVDが世話したことは夙に有名だ。
あのトロツキーを暗殺した伝説的なNKVD工作員、レオニード・アレクサンドロヴッチ・エイチンゴン。
彼もレイバ・ラザレヴッチ・フェリドビンという名前のユダヤ人だった。
東ドイツからの36名の生徒を、KGB或いはGRUが付きっ切りで教える。
今回もその線ではないのか……、決してあり得ない話では無いのだ。
ソ連の策に乗るシュタージも愚かだが、理解して付いて行くユルゲンも考え物
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