第三章
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「まさかお兄ちゃんが売れっ子イラストレーターでね」
「元義君がファンなんてだね」
「思わなかったわ、旦那今もよ」
「僕のイラストやキャラを見てくれてるんだ」
「CGもね」
そちらのアートもというのだ。
「そうしてるわ」
「それは嬉しいね」
「ええ、ただ今も信じられないわ」
妹は兄にこうも言うのが常だった。
「ずっとお日様に当たっていない様なお兄ちゃんがね」
「絵はお部屋で描くものだしね」
「そんな有名なんて」
「そんなに意外なんだ」
「意外よ、ただね」
「ただ?」
「また個展開くのね」
兄にこのことを聞いてきた。
「そうよね」
「その予定だよ」
「旦那がどうしてもって言うし」
後藤、彼がというのだ。
「私もね」
「行ってくれるんだ」
「そうするわね」
「好みに合っていたら何よりだよ」
「ええ、それで売りにも出してるのよね」
絵をとだ、千紗は兄に尋ねた。
「そうよね」
「そうもしているよ」
「そうよね、まあそのお値段もね」
「見てくれるんだ」
「どういったものかね。お兄ちゃんの絵が一体どれだけのお値段か」
それをというのだ。
「見せてもらうわね」
「それじゃあね」
「さて、どれ位かしら」
この時千紗は値段のことは一体どれ位か深く考えなかった、だが夫と共に個展に行ってみてだった。
そしてだ、兄に仰天した声で話した。
「何よあのお値段!?」
「高いかな」
「物凄いじゃない」
その値段はというのだ。
「驚いたわよ」
「いやあ、契約している画廊のオーナーさんがね」
兄は驚いている顔の妹に話した。
「それだけの価値はあるって」
「そう言ってなの」
「あの値段にしてくれたんだ」
「どの絵もなの」
「そうなんだ」
妹に彼女とは正反対に素っ気ない顔で答えた。
「これがね」
「お兄ちゃん凄い人だったのね」
「いや、ただ描いてるだけだよ」
「それが凄いのよ、私そうしたことはよくわからないけれど」
それでもと言うのだった。
「プロの人達がそう言っての値段ならね」
「正しいんだ」
「そう思うわ、けれどもうあれこれ言いにくいわね」
「僕が売れっ子だから?」
「ええ、どうもね」
「気にしなくていいよ、僕は僕だから」
ここでも兄の返事は何でもないといったものだった。
「これまで通りお日様の光浴びろとかね」
「言っていいの」
「いいよ、これからもね」
表情は変わらなかった、そして絵を描いていった。そんな兄を妹はこれまで以上に好ましく思った。そうして夫と彼との間に生まれた息子は彼のファンとして応援し続けたのだった。
地味な兄と思ったら 完
2022・8・22
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