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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第77話 手紙
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動するとなれば、間違いなく何の役にも立たない口先だけの政治家の皆さんの首にはロープがかかりますよ。『物理的』に」

 おそらくトリューニヒトはそれを同盟国内の政治家の中で一番よく理解していた。だからこそ自己保身の為に、シトレやロボスといった重鎮達のミスを主戦論で促進し、彼らを弱体化させ、あるいは篭絡して軍内部にシンパを大規模に構成して行った。

 救国軍事会議の例だけを見て、軍人には経済的な視野が狭いと判断するのは間違いだ。民間企業はだしの財務理論と複雑な物流組織を構成できるようなキャゼルヌは別格としても、国家経済の重要性を理解していない軍人などほとんどいない。それこそシトレもロボスもグリーンヒルも理解しているが、程度の差こそあれ、軍とはヒエラルキー武力組織である以上、別の理論と心情がそれを覆い隠してしまう。

「市民の代表者である政治家が具体的な戦略目標を立てていただき、官僚組織である軍人はそれに対して武力を持って応えるのが筋です。国家経済が許す範囲での軍事行動によってそれが達成されないというのであれば、別の方法を考えることも必要でしょう」
「例えば、それは巷の平和主義者達が言うような帝国との講和も方法かね?」
 アイランズの挑戦的な言葉遣いは、肯定すれば収音マイクの向こうにいるかの人によって首を飛ばすぞと、言っているも同然だ。だが今のトリューニヒトには俺を一時的に辺境に飛ばすことは出来るかもしれないが、退役させるだけの力はない。
「そうですね。個人的な意見と限って言えば、ゴールデンバウム王朝銀河帝国が、アルテナ星域よりこちら側の主権を自由惑星同盟政府に対して公式に認め、交渉において軍事的オプションを放棄するというのであれば、講和してもいいんじゃないですか?」
「……」
「それを今の銀河帝国が認めると思いますか、先生?」

 こんなことを馬鹿正直に事細かく、選挙民の代表である代議士である彼に説明しなければならないのは正直辛すぎる。シトレがトリューニヒトを嫌うのも、そういう戦略論を抜きにした政治を利権獲得活動の場とし、それによる自己権威の拡大を行っているからに他ならない。シトレの本心は『頼むからもっと勉強してくれ』だろう。俺も全く同じ思いだ。

 だがそれを直言居士に口に出すほど、俺はアイランズに含むところがあるわけでもない。利権あさりで倫理的に問題のある男であっても、それを自覚できているだけまだ『マシ』な男なのだ。

「先生。小官はまだ二五歳の若造に過ぎません。少佐という過分な地位を頂いているのも、ひとえに上官と戦場に恵まれたからに他なりません」
 俺はフィッシャー中佐直伝の顔面操作術で『ささやかな笑顔』を作りつつ、アイランズに言った。
「小官もいずれ一流にはなりたいとは思いますが、それには時間と研鑽が必要でしょう。先
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