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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第77話 手紙
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国防態勢を構築すべく、同盟市民の自発的な奮起を呼び起こそうとしておられる。確かに私はふがいない子分の一人に過ぎないが、閣下の目標はすなわち、同盟の帝国に対する勝利だ」
「帝国に対する、勝利」
「さよう。民主国家である我々が、銀河帝国の専制的全体主義を打倒し、勝利することだ」

 それは原作でも散々にあの男が喋っていたことだ。聞く人の耳を酔わせ熱狂させ、魅了する言葉と笑顔。帝国を倒すという、自由惑星同盟という国家に『彼が勝手に』課した使命。俺に原作の知識がなくこの時代に転生していたとしたら、それに酔わされなかったと言い切れない。もしかしたらアイランズのようななっていたのかもしれない。

 だがトリューニヒトは空虚な雄弁を駆使する二流の扇動政治家に過ぎない。俺との因縁だけで言えば、マーロヴィアの草刈りで、口先だけの功績泥棒までやってくれた。なにもせず、なにもなさず、最後にただひとりで果実を味わう男。その空虚さは自身の生存のみに目的が据えられている。ユリアンが戦慄した『新銀河帝国に立憲体制をしく』という目的も、結局のところ自己権力の拡大を伴った本人の目的である自己保身から産まれたものだ。だからこそ、改めてアイランズには問わなければならない。

「その勝利とは『何』です?」
「何、とは?」
 首を傾げ、眉を潜めるアイランズに、俺ははっきりと告げた。
「何をもって、帝国に対する勝利とするのですか、ということです。帝都オーディンに進撃し、皇帝に城下の盟を誓わせることですか?」
「それができれば、それに越したことはないが……」
「先生もお分かりいただけるように、そんなことは逆立ちしても出来ません。そもそも国力が違いすぎます」

 国力の基本である人口だけとって見ても帝国が二五〇億で、同盟が一三〇億。若年層が中心となる将兵の補充余力は単純に三倍近くになる。全体主義的な国家であり、市場統制すら可能である以上、軍事力の差は桁違いと言っていい。

 ただ国力に劣る同盟が、辛うじて国家としての生存が成り立っているというのは、フェザーンの三鼎並立政策がフォローしている上に、帝国側の硬直した貴族社会と非効率な軍事政策のおかげでもある。それも七六〇年マフィアのおかげで徐々に帝国軍も体質改善されつつあり、これから同盟側の自爆と金髪の孺子の進撃によって、同盟軍とそれを支えるべき経済が崩壊するのだ。

「では君は何をもって、勝利と考えているのかね?」
「本来それを考え、市民に提示し選挙を経るのが政治家の仕事です。軍人はその勝利条件を達成する上で助言を行い、軍事上とるべき必要な戦略を構築し、戦術を持って目標を達成するのが仕事です」
「それは、君。軍事の専門家としていささか無責任な言い方ではないかね?」
「先生。軍人が国家戦略目標を勝手に立てて自律的に行
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