第77話 手紙
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ネセンに比べれば暑いが、空笑いしつつ頻繁に額をハンカチで拭くほどの暑さではではない。
「その、少佐。少佐に頼める筋の話ではないのだがね」
「ペニンシュラさんがここでお綺麗な方と一緒だったことは、このTボーンステーキが口を塞いでくれますから大丈夫ですよ」
だいたいそんなネタで今のアイランズを脅したところで、現時点では大したことは出来ない。もしかしたら出世もさせてくれるかもしれないが、今は爺様の下で用兵を学ぶべき時だ。階級だけ上がって何もできないでは、それこそ俺の転生人生にとって意味がない。薔薇の騎士の色男に珈琲をぶっかけられる羽目になるのは勘弁だ。
俺の返事に、アイランズは一度俺をまじまじと見つめた後、見るからに安堵して大きく息を吐いてから、手を付けていなかった自分のステーキへと手を伸ばし、ビールを喉に流し込んでいる。見るからに小物政治家の態度を見て、俺は彼の後ろにいるかの人物のことを考える。
恐らくはこの招待自体、アイランズだけの考えだけではなくかの人も噛んでいる。アイランズ自身も口止めの必要性は十分理解しているだろうが、代議員が選挙区の有権者でもない一介の少佐に対してするには、彼の腰は低すぎるほどに低い。俺が昇進や何か脅迫的なことをすれば、自分の不利益を承知の上で応えるつもりぐらいだ。
金銭や品物を要求するようなら、リベートや賄賂を駆使して調達するだろうし、昇進ならば国防委員会を通じて取り計らうことだろう。金銭や地位によって軍人を自派に取り込もうとするのが、かの人の常套手段だ。まぁ今回は本当に偶然だが、そういう偶然を確実に掴み、絡めとろうとする鋭さこそ油断できない。
「それでだね、少佐。君は軍人として、これから何をしたいか是非とも聞きたくてね」
具体的な要求がない時は、そう聞いてこいと言われたのだろう。最後に出てきた珈琲を前に、アイランズは俺から視線を外しつつ聞いてきた。脅迫の継続だけは本人も阻止したいだろうし、後日に過大な要求をされれば恩人とやらに迷惑も掛かる。俺を敵として排除するか、味方として取り込むか……その判断を下したい。
恐らくは録音録画されている。現在のアイランズに気の利いた返しができるとは、かの人も考えてはいまい。さしずめサマージャケットのボタンが妖しいとは思うが、その先に誰がいるかとわかれば、まったく怖いものでもない。
「そうですね。軍人としては政治家であるペニンシュラ先生がこれから何をしたいかを、是非ともいま伺いたいですね」
問いに対して問いで返すのは礼儀に反するとは思うが、俺は今かの人と話すつもりはない。一〇年後に突如守護天使が勤労意欲に目覚め、そして燃え尽きる一人の三流政治家と話がしたいのだ。眼に見えて狼狽えたアイランズを真正面から見据えて、俺は言った。
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