第76話 演習 その2
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ので殆どいない。オフシーズンというべきだが、海に入れないほど寒くもない。露店は半数近くが閉まっていて、まさにオフシーズンの観光地という雰囲気が充満している。リゾートホテルにもプールやスパなどの施設が充実しているから、ホテルから出なくても何も不自由はないのだが、気晴らしが目的なのでフェザーンで買った私服で、ブラブラと市街地というには少し寂しい道を歩いていた。
俺は自分が不幸体質であるとは思ってはいない。思っていないはずだったが、何となく歌声に惹かれて入ったオープンテラスタイプのシーフードレストランを出たところで、この人に会うとは思ってもいなかった。
若い水商売を思わせる艶のある金髪の女性と一緒に居た、四〇代後半か五〇代の男。肩幅はあるし恰幅もあるが、何か人の目を気にしているように目に自信が存在しない。一見しただけで愛人との不倫旅行であると自己主張している雰囲気。そして案の定、その纏う『弱気』と『金』の臭いに引き寄せられたチンピラモドキに囲まれている。
「どうかしましたか?」
こういう事態に会った時は速やかに警察に通報すれば面倒がなくて済むのかもしれない。だが囲まれているのがその人であるなら、さっさと救ってあげた方が面倒がなくて済むと、俺は判断した。俺の声かけに、その人は地獄に救い主が現れたように気色を取り戻し、三人組のチンピラモドキは余計な邪魔すんなと俺を睨みつけてくる。そのうち一人はナイフを俺に向けた。
「そんなナイフじゃ、人は刺せないよ。見逃してあげるから早くおうちに帰りなさい」
我ながらそれなりの煽り文句がスラスラと出てきて、自分でもおかしく笑いそうになったが、それがさらに劇的な付与効果となったのか、チンピラモドキは顔を歪ませ奇声を上げて、俺にナイフを翳して突っ込んでくる。それなりの気迫に見えるが、エル=ファシルでブライトウェル嬢のトレーニングついでに立ち会った、ジャワフ少佐とは比較にもならない。少佐でそうなんだから薔薇の騎士の色男なんていったいどんな人外なんだって思う。
前世でこういう場面に出会うことはなかったものの、おそらく当事者として遭っていたら、そそくさと逃げていたに違いない。一度死んだことがあるからか、それとも海賊や帝国軍と戦って抗体がついてしまったのか。不思議と怖いという感覚がしない。突っ込んできたナイフを半身で躱して、付けた反動で右膝を腹にのめり込ませ、腰が曲がった状態で静止したチンピラモドキの後頭部に組んだ両手を振り下ろすと、潰れた蛙のように気を失って地面に這い蹲った。
潰れた相手を助けることなく、他の二人は俺が視線を向けると逃げ去っていく。追うのも馬鹿らしいので、携帯端末で警察を呼ぶことにすると、その人は汗を拭きつつ俺に近寄ってきた。
「どうやら私は君に助けられたようだね
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ