第二部 1978年
ソ連の長い手
崩れ落ちる赤色宮殿 その4
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族共和国ごとの自主独立をソ連政治局の指令で認めた。
しかし同時に、楔を打ち込むことは忘れなかった。
出生した乳児は生後間もない段階で軍事施設に送り込む政治局指令を合わせて発令。
1936年以来、家庭保護、母性の尊重を続けたソ連政権の家族政策を一変させる出来事でもあった。
人々は、かつて孤児が徒党を組み、街を練り歩き、婦女子を辱め、店を破壊したを思い起こす。
その再来を、心から危惧した。
男は、志半ばで倒れた亡父を想い、嗚咽しながら続ける。
ラトロワは、背中で男の温もりを感じながら、静かに聞いていた。
「ソ連の銀狐の息子として……、グルジア第一書記の息子として……」
言葉に詰まった男は、思わず天を仰いだ。
「自分の遺志を継いで、政治の表舞台に立ってほしいという事だよ。俺はそう思っている」
そう告げると、男は再び項垂れた。
傷心の男を慰めようと、機内にいる人物の口々から発せられた。
抱き着く男の前に佇むラトロワの耳にまで、カフカス訛りの強いロシア語が聞こえて来る。
「若……」
「無念で御座ります……」
男の頬から流れ出る滂沱の姿を見て、深緑の制服を着た彼の護衛達は咽び泣いた。
1978年7月3日。
その日、帝政ロシア時代より続いた120年に及ぶハバロフスクの歴史は終わった。
マサキは、睥睨する様に聳えるゼオライマーを背にして、日の傾き始めた屋外に佇む。
機密性の高い操縦席で喫煙をするのは、ご法度ゆえ、一人機外に降り立っていた。
マサキは痛む左肩を庇いながら、懐中より紙巻きたばこを取り出す。
ホープの紙箱よりタバコを抜き出すと、口に咥える。
右手に持つライターで、炙る様に火を点けた。
「あまりにも他愛無いものだ。あの様な連中に……この俺が傷つけられようとは」
そうつぶやくと、紫煙を燻らせながら跡形もなく消えたハバロフスク市街を一人歩いた。
暫し考え込んだ後、煙草を投げ捨てると再び機内に乗り込む。
荒野に吹く一陣の風と共に、ゼオライマーは姿を消した。
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