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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
崩れ落ちる赤色宮殿  その4
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門の火砲から浴びせられる攻撃。
何事もないかのように、ゼオライマーは射撃準備を取り続けていた。

 胸の球体から、灼熱の太陽を思わせる様な強い光が放たれる。
直後、僚機から戸惑いの声が上がる。
「ええ!」
「何だ、アレは……」
全部隊の状況を確認する余裕は隊長にはなかったが、必死の思いで指示を出す。
「全機後退!タミナール・ビルまで退避ぃ!」
 ただ隊長にさえも説明する時間などなかった。
ゼオライマーの攻撃準備を確認する間さえなく、滑走路の路面が大きく割れ始める。
戦術機に搭載可能な兵器では満足に削る事さえ困難な強度を誇るコンクリート…… 
 まるで綿あめのように溶けていく様を見ていると、光に包まれた。
新型機の管制ユニットに、強烈な衝撃が走る。
「此処で退けばソ連の運命は……」 
男の駆る灰色の戦術機は、全身を完全に消し去っていった。




 空路、ウラジオストックに向かう数台のソ連空軍汎用ヘリコプター『Mi-8』。
その機内から遠く離れたハバロフスクから上がるキノコ雲を唖然と見つめていたラトロワ。

「ハバロフスクが……」
心配そうに西の方角を見つめる彼女の背中に、カフカス人の若い男が近寄る。
M69将校勤務服を着た黒髪の男が、そっと包み込む様に両手で肩から抱きしめた。
「フィカーツィア。親父が……俺を逃がした理由は分かるか」
左側に立つ男の顔を覘く。緑色の瞳がじっと彼女の顔を捉えた。
「親父は、最初から日本野郎(ヤポーシキ)と討ち死にする心算(つもり)だった……」
抱きしめられたラトロワは、男の体の震えを背中越しに感じ取っていた。
「親父はグルジア共産党第一書記として、グルジアの自主独立の道を探っていた。
30年余り共産主義青年団(コムソモール)から身を起こしてグルジア共産党中央委員を務めあげた。
グルジア保安省大臣も務めた男だ……。あのゼオライマーと言う大型兵器(スーパーロボット)に勝てぬのは百も承知だったに違いない」
 男の潤む翠眼(すいがん)を、唯々ラトロワは見ていた。
「俺に落ち延びる様に命じたのは、何れグルジア再独立の際に……」

 ソ連はBETA戦争初期、ロシア系市民以外の少数民族の戦線投入を実施した。
しかしBETAの迫りくる物量の恐怖は、プロレタリア独裁の専制政治を遥かに凌駕した。
 時にソ連市民にさえ仏心を見せたKGBとは違い、BETAはまるで機械の様に動き回り、ソ連を(むさぼ)った。
政治将校(コミッサール)からの粛清や、KGBの弾圧の恐怖さえも忘れさせるBETA……
最前線での脱走や反乱は日常化し、指揮系統の維持は困難を極めた。

 そこでソ連政権の採った方策は、スターリン時代以来禁忌の存在であった民族問題。
同民族での部隊編成や、終戦後の民
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